
Journal club 2025
Das et al., (2025) Spatial mechanisms of quality control during chaperone-mediated assembly of the proteasome. Nat Commun. 2025 Apr 9;16(1):3358.
プロテアソーム組み立て中間体の空間的な品質管理機構
プロテアソームは細胞内のタンパク質の分解を担う巨大な複合体である。プロテアソームを構成するサブユニットは33種類にも及び、その組み立てには専用のシャペロンが必要である。プロテアソームの組み立ては、単にサブユニット同士を結合するだけでなく、各ステップが精査され、正しく組み立てられている中間体だけがプロテアソームとなる可能性があることが、最近の研究で示唆されている。今回著者らは、19S RP (Regulatory Particle)の組み立てに関与する4種類のシャペロン (Nas2, Nas6, Rpn14, Hsm3)に注目し、プロテアソームを組み立てる際の品質管理(Quality Control)機構を見出した。この機構は、19S RPのサブユニットであるRpt2の核局在化シグナル (NLS)を介して欠陥のあるプロテアソームの中間体を核内に隔離し、正しいプロテアソームの組み立てを促進することが分かった。また、このNLSは進化的に保存されており、出芽酵母からヒトまで幅広い生物種が保持している。しかし、プロテアソームそのものの核への局在化にはRpt2のNLSは不要であり、プロテアソームの品質管理にのみ役割を果たしている。更に、プロテアソームが組み立てられる間、その組み立てが正しく行われているかどうかは継続的にモニターされており、組み立てに欠陥のある中間体はその都度核内へ隔離される。著者らは、この発見をプロテアソームの制御における20年来の謎を解明するものであるとしている。しかし、組み立て不良のプロテアソームと、それに付随するシャペロンだけが核内に隔離されていることを示す顕微鏡観察によるデータは著者らの行った実験の中にはない。そのため、著者らの提唱するモデルの是非については更なる研究が必要であると思われる。 (紹介者:樋口)
Gea Cereghetti et al. (2021) Reversible amyloids of pyruvate kinase couple cell metabolism and stress granule disassembly. Nat Cell Biol. 23(10):1085-1094. doi: 10.1038/s41556-021-00760-4.
FBPレベルの上昇によるCdc19アミロイドの分解が細胞代謝とSGの制御を結び付ける
細胞はストレスに応答して翻訳を停止し、mRNAや翻訳に関連するタンパク質をストレス顆粒 (SG) に隔離する。ストレス回復時にはSGの速やかな解消が必要とされるが、その分子メカニズムはまだ十分に解明されていない。本研究では、解糖系のピルビン酸キナーゼであるCdc19が熱ストレス下で不活性なアミロイドを形成し、SGに局在することを明らかにした。また、ストレス下で不可逆的なアミロイドを形成する変異体 (Cdc19irrev) を用いた解析から、ストレス回復時のアミロイドの迅速な再可溶化がSGの解消、ATPの生産、細胞増殖の再開に重要であることを示した。Cdc19の活性は解糖系代謝産物のフルクトース-1,6-ビスリン酸 (FBP) の結合によりアロステリックに制御されているが、Cdc19へのFBPの結合がCdc19アミロイドの再可溶化にも関与していることが示唆された。加えて、SGの効率的な解消にはATP依存的なシャペロンであるHsp70やHSP104が寄与しているが、FBPが結合できないCdc19irrev変異体を持つ細胞ではこれらのシャペロンがSGにリクルートできなかったことから、シャペロンのリクルートにもCdc19へのFBPの結合が必要であることが示された。
本研究はCdc19へのFBPの結合を介したCdc19アミロイドの制御が細胞代謝とSGのダイナミクスを結び付けるメカニズムとして興味深いが、細胞内のATPレベルやHsp104のリクルートについてはさらなる解析が必要であると考えられる。(紹介者:船橋)

Shu, W et al. (2020). Rph1 coordinates transcription of ribosomal protein genes and ribosomal RNAs to control cell growth under nutrient stress conditions. Nucleic Acids Res., 48(15), 8360–8373. doi: 10.1093/nar/gkaa558.
Rph1のRNAポリメラーゼを介した転写の調節が細胞の生長を制御する
リボソームの生合成には多くのエネルギーを必要とするため、栄養枯渇条件下ではこの生合成を適切に制御する必要がある。そのため、rRNAとリボソームタンパク質遺伝子 (RPG) の転写を調節することはストレス下での細胞の生存にとって重要である。Rph1は窒素飢餓条件下におけるオートファジー関連遺伝子の発現の制御に関わる転写因子であることが報告されていた。本論文では窒素飢餓条件下とラパマイシン処理で、Rph1を介したリボソーム生合成の制御が行われるのか検討した。ChIP解析により、RNA PolⅠ、RNA PolⅡがそれぞれ転写を行うrRNAやRPGの転写領域にRph1が広く結合しており、ラパマイシン処理時にはこれらの領域から遊離することが確認された。このRph1の遊離は、ラパマイシン存在下でTORC1が阻害されることでリン酸化されたRim15によってRph1がリン酸化されることで引き起こされることが明らかとなった。また、ラパマイシン存在下で、Rph1欠損株は野生株に比べてrRNAやRPGの転写量が増加し、生育も良くなることがわかった。これらの結果から、Rph1は転写領域に結合することで異なるRNAポリメラーゼによるリボソーム関連遺伝子の転写を同時に抑制し、TORC1阻害時にはクロマチンから離れて抑制が解除されることが示唆された。著者らは、Rph1が転写領域に結合することでリボソーム生合成を抑制し、TORC1阻害時では一部を残してRph1がリン酸化されて遊離することで最低限のリボソームを合成でき、細胞の生存につながると考えている。本論文に加えて、栄養枯渇及びラパマイシン存在下における細胞の長期的な生存率の変化をRph1欠損株と野生株で比較し、野生株の方が細胞の生存が維持される結果が得られれば著者らの考えをより強化できると考えられる。(紹介者:吉山)

Noritaka Ohigashi et al.(2025) Vacuolar Sts1 Degradation-Induced Cytoplasmic Proteasome Translocation Restores Cell Proliferation. Genes Cells2025 Mar;30(2):e70004.doi: 10.1111/gtc.70004.
プロテアソームの細胞質移行はSts1の局在変化によって制御される。
26Sプロテアソームはポリユビキチン化タンパク質を選択的に分解することで様々な細胞内プロセスを制御している複合体である。プロテアソームは対数増殖期には核内に局在しているが定常期になると細胞質へ移行しProteasome Storage Granules (PSG)を形成する。先行研究よりプロテアソームの核への局在はSts1が制御していることが報告されている。
Sts1はnuclear localization signals(NLS)を含み、核輸送因子カリオフェリンと26Sプロテアソームのアダプターとして働いている。またプロテアソームの細胞質転移の制御因子として同定されていたHul5はHECT型ユビキチンリガーゼ(E3)であり、K48、K69、K29結合ポリユビキチン鎖の形成を触媒する。本研究では定常期にSts1がHul5のE3活性依存的に液胞に隔離され、プロテアソームが細胞質へ移行することを明らかにした。またその際、Sts1はユビキチン化されていないことも明らかにした。
定常期に入ったhul5Δ株とE3不活性型変異hul5 C878A株ではプロテアソームは核内に局在した。しかしhul5ΔとSts1不活化する変異sts1-2 (C194Y)の二重変異株ではプロテアソームは細胞質にとどまっていた。また定常期においてWTではSts1-GFPは液胞に隔離されるのに対し、hul5Δとhul5 C878Aでは細胞内全体に拡散していた。さらに、定常期に入った細胞でSts1を過剰発現させるとSts1は核内に局在し、プロテアソームも核内に局在していた。以上のことからHul5は定常期になるとSts1をE3活性依存的に液胞に隔離することでプロテアソームの局在を制御していることが示唆された。
定常期でもプロテアソームが核内に局在している株ではユビキチン化タンパク質の凝集増加、ミトコンドリア膜電位の低下、プロテオトキシックストレスからの増殖再開機能の遅延が確認され、これらの結果を基にPSG形成の生理的意義を著者らは考察している。本研究でHul5がSts1の液胞隔離を制御していることが明らかになったが、Sts1は定常期でユビキチン化されていないことも著者らは確認している。著者らはよりプロテアソームの局在変化のメカニズムを理解するためにはHul5の標的の解明が不可欠であると考えている。
(紹介者:田中)

Li et al. (2024) Bidirectional substrate shuttling between the 26S proteasome and the Cdc48 ATPase promotes protein degradation. Mol Cell. 84 (7): 1290-1303. doi: 10.1016/j.molcel.2024.01.029.
26SプロテアソームとCdc48 ATPアーゼの間における基質の輸送はタンパク質の分解を促進する
ポリユビキチン化されたタンパク質はCdc48によってアンフォールディングされた後、シャトルタンパク質によりプロテアソームに運ばれ、分解される。Ubx5は、ubiquitin-asssiataed (UBA) domain とCdc48-interacting ubiquitin regulatory X (UBX) domainを含むUBA-UBXタンパク質の一つであり、Cdc48への基質のリクルートとその活性の制御に関わっている。シャトルタンパク質のRad23とDsk2はタンパク質の分解を促進することが知られていたが、その詳細なメカニズムは理解されていなかった。筆者らは、in vitroでタンパク質の分解系を再構築し、シャトルタンパク質やUBA-UBXタンパク質を加えた際の分解効率の変化、および基質とその分解に関連するタンパク質との相互作用を調べた。その結果、Rad23とUbx5が特定の濃度で存在すると基質の分解が促進され、それぞれのタンパク質の有無に応じて、基質がプロテアソームとCdc48の間を移動することが分かった。これにより、Rad23とUbx5はプロテアソームとCdc48の間で基質を双方向に輸送し、タンパク質のアンフォールディングと分解の効率を高めていることが示唆された。さらに、この結果は過剰発現株と欠損株を用いたin vivoの実験でも適用された。本研究は、シャトルタンパク質とUBA-UBXタンパク質がどのようにタンパク質の分解を促進するのかを示唆する重要なものである。さらに、分解過程でアンフォールディングが必要と推測されるタンパク質が同定されたことで、今後、このデータを用いたin silicoでの解析により、タンパク質の構造に応じた分解機構の理解が進むことが期待される。(紹介者:行方)

Boncella et al. (2020) Composition-based prediction and rational manipulation of prion-like domain recruitment to stress granules. Proc Natl Acad Sci USA. 117(11):5826-5835. doi:10.1073/pnas.1912723117
ストレス顆粒へのプリオン様ドメイン導入はアミノ酸組成に基づいて決定される
プリオン様ドメイン(PrLD)は天然変性領域(IDR)の一種であり、酵母のプリオンドメインに組成的に類似した、Q/N(グルタミン/アスパラギン)を豊富にに含むドメインである。ストレス顆粒に局在する多くのRNA結合タンパク質にPrLDが含まれることが知られている。本論文では、酵母のタンパク質に含まれるPrLDに注目し、35種類のタンパク質中のPrLDの凝集と凝集しやすいPrLDの特徴について解析を行った。46℃の熱ストレス条件下で凝集した(>60% of cells)PrLDとそうでないPrLDのアミノ酸組成を比較すると、凝集したPrLDは荷電したアミノ酸、疎水性アミノ酸の割合が大きく、極性アミノ酸の割合が小さいことが明らかになった。また、このようなアミノ酸組成の偏りから、アミノ酸組成に基づいてPrLDの凝集を予測するモデルを考案した。このモデルでは、ストレス誘導性のPrLDの凝集体形成を従来のプリオン予測アルゴリズムよりも高い正確性で予測することができた。また、このモデルに基づいて、アミノ酸置換による凝集の制御や、人工的に凝集の有無をコントロールしたPrLDの合成を行うことができた。さらに、PrLDの凝集体はストレス顆粒因子であるPab1と共局在していたことと、アミノ酸配列をランダムに入れ替えたPrLDで凝集の有無は変化しなかったことから、PrLDのストレス顆粒へのリクルートはアミノ酸組成によって決められていることが示唆された。しかし、これらの特徴や予測モデルの精度は全てPrLDに限定的である。PrLDの組成がタンパク質全体やその凝集にどの程度影響するのかは不明であるため、今回の結果を足掛かりに解析が進むことが期待される。(紹介者:関本)
Mochida K et al. (2020) Super-assembly of ER-phagy receptor Atg40 induces local ER remodeling at contacts with forming autophagosomal membranes. Nat Commun. 11(1):3306. doi: 10.1038/s41467-020-17163-y.
ERファジーレセプターAtg40は多量体化して小胞体の折り畳みを誘導する
栄養枯渇下では小胞体(ER)やミトコンドリアといったオルガネラが選択的オートファジーの対象になる。選択的オートファジーでは各標的上にレセプタータンパク質が局在化し、隔離膜上のAtg8と相互作用することでオートファゴソームへ効率的に隔離される。これまでにERファジーのレセプタータンパク質としてAtg39とAtg40が同定されたが、ERファジーの機構については不明な点が多い。本論文ではERファジーにおけるAtg40の機能について解析した。まず、Atg40の疎水性領域にはヘアピン構造を持つことから、レティキュロン様ドメインを持つことが推定された。レティキュロンタンパク質であるYop1、Rtn1、Rtn2の三重欠損株で見られたERの異常なシート状構造の異常がAtg40の過剰発現により解消されたことから、Atg40はER膜を折り曲げる機能を持つことが示唆された。次に、ラパマイシン処理時にAtg40はAtg8と共局在し、foci形成時に同じ速度で輝度が増加したことからオートファゴソームの形成とAtg40の凝集が同時に起こることが示された。そして、人為的にAtg8を凝集させAtg40の凝集を誘導するとYop1がfociに共局在したことから、オートファゴソーム内ではERが高度に折り畳まれていることが示された。これらの結果から、Atg40はAtg8と相互作用して凝集することでERの折り畳みを促進する機能を持つことが明らかになった。(紹介者:清水)

Peyman P. Aryanpur et al. (2022) The RNA Helicase Ded1 Regulates Translation and Granule Formation during Multiple Phases of Cellular Stress Responses. Mol Cell Biol. 42(1):e0024421. doi: 10.1128/MCB.00244-21.Epub 2021 Nov 1.
Ded1は適切なストレス応答に重要である。
Ded1は翻訳開始前複合体(PIC)の構成因子であり、mRNAの5′-末端から開始コドンに達するまでのスキャニングにおいて、RNA helicaseとしてmRNAの2次構造解消を担っている。また、さまざまなストレス下でDed1が液液相分離してストレス顆粒(SG)に隔離されることが知られており、ヒートショック下ではSGへのDed1の隔離がハウスキーピングmRNAの翻訳抑制を引き起こすと報告されている。著者らはこれまでに、TORC1阻害下でDed1がeIF4G1をPICから引き抜き、共に分解されることで翻訳抑制が誘導されるという、新たなモデルを提唱した。本論文ではDed1自身のオリゴマー化とeIF4G1との結合に関わるC末端領域を欠失したded1-ΔCTを用い、DED1の過剰発現と酸化ストレスへの応答を調べた。ded1-ΔCTは過剰発現時にSGを形成せず、増殖抑制を緩和させた。また、ded1-ΔCT株とΔtif4631(eIF4G1欠損)株は野生株と比べて酸化ストレスへの適応に時間を要することを明らかにした。著者らは、酵母のストレス応答におけるDed1のC末端領域の重要性を再確認し、ストレスへの初期応答や適応段階、およびストレスからの回復段階などの複数の段階で、Ded1が重要な役割を担うと結論付けた。(紹介者:寺島)

Jianhui Li et al. (2019) AMPK regulates ESCRT-dependent microautophagy of proteasomes concomitant with proteasome storage granule assembly during glucose starvation. PLoS Genet. 2019 Nov 18;15(11): e1008387. doi: 10.1371/journal.pgen.1008387.
AMPKはグルコース枯渇中にESCRT依存性のプロテアソームのミクロオートファジーをPSGのアッセンブリーと同時に制御する
AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は、ヒトから酵母まで真核細胞に高度に保存されているセリン・スレオニンキナーゼであり、通常は細胞内エネルギーの低下に応答して活性化される。一方、Endosomal Sorting Complex Required for Transport complex (ESCRT)は酵母のmulti-vesicular body (MVB)の形成に関与するタンパク質群である。また、酵母のプロテアソームは炭素源枯渇条件下で細胞質にProteasome Storage Granules (PSG)を形成することが知られている。さらに、窒素飢餓条件では、プロテアソームがオートファジーによって分解(プロテアファジー)されることも報告されている。PSGの生理的意義については、プロテアファジーからの回避が一説として考えられているが、詳細は未解明であり、その細胞内制御機構も十分に明らかになっていない。
これまでの研究では、プロテアファジーは主に古典的なマクロオートファジーによって生じると考えられてきた。この論文ではAMPKが、ESCRT依存的にaberrantなプロテアソームのミクロオートファジーを誘導することを明らかにした。低グルコース条件下でプロテアファジーをimmunoblot法で解析した結果、AMPK変異体 (snf1∆・snf4∆)ではプロテアファジーが完全に阻害された。一方、ESCRT変異体 (vps mutants)では、一部の条件下でのみプロテアファジーが生じることが確認された。酵母では液胞でのタンパク質の輸送および分解にESCRT依存的なミクロオートファジーが関与することが知られており、ミクロオートファジーの標的として報告されているVph1の分解についてimmunoblot法で解析を行った。その結果、窒素飢餓条件下では、Vph1の分解にAMPKは必要とされないが、ESCRT機構は必要であった。窒素飢餓下のプロテアファジーにも同様にAMPKは必要なかったことに基づき、著者らは低グルコース条件下におけるプロテアファジーは、ESCRT依存的なミクロオートファジーによるものであると結論付けている。ただし、Vph1の分解とプロテアファジーとの関連性を裏付けるさらなる証拠が必要である。これらの結果は、低グルコース条件下でのプロテアファジーがESCRT依存的なミクロオートファジーに起因していることを示唆している。(紹介者:今城)