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Journal club 2024

Carter et al. (2024) Sequestrase chaperones protect against oxidative stress-induced protein aggregation and [PSI+] prion formation. PLoS Genet. 2024 Feb 29;20(2):e1011194. doi: 10.1371/journal.pgen.1011194.

Sequestraseによる変性タンパク質の隔離は酸化ストレスダメージを軽減する

細胞が環境ストレスに曝されタンパク質が変性・ミスフォールドすると、sequestraseであるBtn2やHsp42がそれらのタンパク質を細胞の特定の部位に隔離することが知られている。Btn2とHsp42の正確な機能を調べるため、著者らは過酸化水素による酸化ストレス下でbtn2Δhsp42Δ株のgrowthが低下することに注目した。btn2Δhsp42Δでは凝集体が増加する一方、脱凝集酵素のHsp104を過剰発現させることでgrowthが回復したことから、タンパク質凝集による細胞毒性が酸化ストレス感受性を引き起こすことが示唆された。また、著者らはsequestraseの基質であり[PSI+]プリオンを形成するSup35の凝集がbtn2Δhsp42Δ株や酸化ストレス下で増加することを見出した。さらに、同条件下でアモルファス状の凝集体とアミロイド状の凝集体の両方が増加していることを示した。これらの結果から、Btn2とHsp42による変性タンパク質の隔離が、酸化による凝集体形成、アミロイド形成がもたらすダメージを軽減する重要な抗酸化防御機構であることを明らかにした。

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Tomaszewski et al. (2023) Solid-to-liquid phase transition in the dissolution of cytosolic misfolded-protein aggregates. iScience 26, 108334. doi: 10.1016/j.isci.2023.108334.

熱ストレスや酸化ストレスなどの環境変化は細胞内のタンパク質を変性させ、さらに凝集すると細胞毒性を示すことが知られている。凝集したタンパク質は脱凝集酵素Hsp104とHsp70によるバイシャペロンシステムにより脱凝集されてリフォールディングや分解を受けるが、凝集したタンパク質が脱凝集されるまでの過程については理解が進んでいない。本論文では凝集体のマーカーとしてFlucSM-GFPを用い、熱ストレスにより生じた凝集体がストレスからの回復過程で消失するまでの過程を解析した。その結果、凝集体は固相から液相に相転移(SLPT)することで可溶化することを明らかにした。SLPTに関与する遺伝子のスクリーニングの結果、Hsp104やHsp110ファミリーであるSse1などが関連することが見いだされた。一方でHsp70はSLPTには寄与せず、凝集体の解消のみに関連することが示された。さらにアルデヒドデヒドロゲナーゼAld6は熱ストレスからの回復過程でFlucSM-GFPと同様の挙動を示したことから、SLPTは酵母自身が持つタンパク質の凝集体においても起きている現象だと考えられた。今後、熱ストレス以外のストレスにより形成された凝集体の解消についても解析が進められることが期待される。(紹介者:清水)

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Davi Gonçalves, Sara Peffer and Kevin A. Morano

Cytoplasmic redox imbalance in the thioredoxin system activates Hsf1 and results in hyperaccumulation of the sequestrase Hsp42 with misfolded proteins

bioRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2023.06.26.546610; this version posted June 26, 2023.

 

細胞は環境ストレスにさらされると、恒常性を維持するために複数のシステムを用いて対処する。例えば、新生ポリペプチドは熱、pH、酸化ストレスなどの各種ストレスに対して敏感だが、シャペロンがミスフォールドしたタンパク質のリフォールディングを促進することでタンパク質の恒常性 (プロテオスタシス) は維持されている。細胞内の酸化還元バランスは、主にチオレドキシン系とグルタチオン経路によって維持されているが、これらの相互作用はよくわかっていない。著者らは、細胞質のチオレドキシンレダクターゼTRR1を破壊すると、出芽酵母では熱ショック応答が恒常的に活性化され、ミスフォールドしたタンパク質を隔離するHsp42が、デポジションサイトであるJUNQ (juxtanuclear quality control)に持続的かつ過剰に蓄積することを明らかにした。また、trr1Δ細胞では、Hsp42だけでなくミスフォールドしたタンパク質もJUNQに蓄積した。更に、TRR1とHSP42遺伝子のどちらも欠損した細胞では、酸化的ストレス下で成長が顕著に遅延し、酸化還元のバランスの悪い条件下ではHsp42が重要な役割を担うことが示唆された。著者らは最後に、trr1∆細胞におけるHsp42の局在パターンがグルコース飢餓状態に陥った細胞におけるHsp42の局在パターンと似ていることを示し、栄養欠乏や酸化還元バランスの乱れがミスフォールドしたタンパク質の長期的な隔離を含む対処に関係していると主張している。 (紹介者:樋口)

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Boronat et al(2023) Formation of Transient Protein Aggregate-like Centers Is a General Strategy Postponing Degradation of Misfolded Intermediates J Mol Sci. (13):11202. doi: 10.3390/ijms241311202.

 分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)では、熱感受性タンパク質が分解から逃れるためPAC (Transient Protein Aggregate-like Centers)に蓄積する。この機構の役割は、実験系ごとに培養条件や使用されるレポーターが異なるため判断が難しかった。著者らは、既に分裂酵母において熱ストレス時にPACに蓄積することが知られていたタンパク質Rho1.C17R-GFPを出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)で発現させ、その動態を調べた。その結果、出芽酵母においても、穏やかな熱ストレスはRho1.C17R-GFPとHsp104(凝集体からタンパク質をほどく脱凝集酵素)から成るPACの形成を誘導することを確認した。厳しい熱ストレスは細胞質にPACを形成するだけでなく、核小体にリング状の構造体 (NuR) の形成も引き起こす。NuRも温度が回復した際に凝集していたタンパク質が再び可溶化・再生されることで解消された。著者らは出芽・分裂両酵母の解析から、タンパク質はPACに隔離されることでプロテアソームによる分解から逃れ、ストレスからの回復段階では分解ではなくリフォールディングされて再生されると報告している。本研究では、遠縁の酵母が軽重どちらの熱ストレスに対しても非常によく似た生存戦略を持つことを明らかにした。また、PACやNuRなどの形成がタンパク質を分解から守り、これを再利用することでストレスからの脱却を早めるという仕組みが、真核細胞が持つ一般的な機構であると主張している。(紹介者:樋口)

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Ali et al. (2023) Adaptive preservation of orphan ribosomal proteins in chaperone-dispersed condensates. Nat Cell Biol. 25(11):1691-1703. doi: 10.1038/s41556-023-01253-2.

ストレスに晒されるとリボソーム生合成が停止し、rRNAと結合していないorphan Ribosomal Proteins (oRPs)が細胞内に蓄積する。著者らはタンパク質タグの一つであるHaloTagとそのリガンドである蛍光色素を用いて新規合成RPsを特異的に標識することで、39℃のヒートショック下でoRPsが核小体周辺に蓄積し、Jドメインタンパク質Sis1と共局在することを見出した。集合体内のoRPsは流動性を持ち、ストレスからのリカバリー時にはoRPsがリボソーム生合成に利用されることで、翻訳活性と細胞増殖の速やかな再開を可能にすることを明らかにした。さらに、Sis1の核外への排除やHsp70のATPase活性の阻害により、集合体内のoRPsの流動性が失われ、細胞増殖の再開が遅れることを示した。これらの結果は、ストレス下でSis1とHsp70がoRPs集合体の流動性を維持することが、ストレスからのリカバリー時の効率的なリボソーム生合成と細胞増殖の再開に重要であるということを示唆している。(紹介者:船橋)

 

 

 

 

 

 

 

 

Andersson et al. (2021) Differential role of cytosolic Hsp70s in longevity assurance and protein quality control. PLoS Genet. 17(1): e1008951. doi: 10. 1371/journal.pgen.1008951. 

酵母はSSA1~4遺伝子にコードされた4種類のcytosolic Hsp70を持つ。SSA1とSSA2は構成的に発現しており、SSA3とSSA4はストレスに応答して発現が誘導される。これらのHsp70は細胞内タンパク質の品質管理(PQC, Protein Quality Control)システムの主要因子として働き、脱凝集酵素Hsp104とともにバイシャペロンシステムとしても機能する。

SSA1とSSA2が欠損した細胞は野生株に比べて複製寿命が短い。本研究ではSSA1とSSA2の二重欠損株においてSSA4を過剰発現することで、複製寿命が野生株と同程度まで回復することを明らかにした。また、SSA4の過剰発現は温度感受性の改善やタンパク質凝集体の形成を抑制し、リフォールディング能力も回復させることが示された。一方、Hsp104のタンパク質凝集体へのリクルートは完全には回復しなかった。これにはHsp70のNucleotide Binding Domain (NBD)が関与しており、Ssa4のNBDをSsa1のものに置き換えたキメラタンパク質を過剰発現させるとHsp104のリクルートが可能となった。

つまり、Ssa4はSsa1とSsa2の機能を部分的に補うことができ、複製寿命の回復はHsp104非依存的に行われていることが示唆された。一方で、凝集体のクリアランスを効率的に行うHsp104とHsp70のバイシャペロンシステムについては、Ssa4ではなくSsa1がHsp104と相互作用することで成立していると考えられる。本研究により、細胞質のHsp70ファミリーにはそれぞれ違いがあることが明らかになり、これらのタンパク質が持つ個々の特性の解明が進むことが期待される。(紹介者:山本)

Loberg et al. (2019) Aromatic Residues at the Dimer−Dimer Interface in the Peroxiredoxin Tsa1 Facilitate Decamer Formation and Biological Function. Chem. Res. Toxicol. 32, 474-483. doi: 10.1021/acs.chemrestox.8b00346.

Tsa1はチオレドキシンペルオキシダーゼの一種であり、細胞質で過酸化水素の還元を行なう抗酸化酵素で、その還元活性はCys47の酸化還元状態に依存しており細胞質に存在するチオレドキシンTrx1/2により調節を受ける。Tsa1はダイマー構造を基本構造としており、多量化によりデカマー(十量体)構造を取ることが知られている。Tsa1のダイマー界面に位置するPhe44と Tyr78は種間で高度に保存されていることから、著者らはこれら芳香族アミノ酸のデカマー形成における重要性や生理活性への影響をin vitroとin vivoで検討した。Phe 44またはTyr 78を疎水性アミノ酸AlaまたはLeuに置換するとin vitroではデカマー形成が阻害され、過酸化水素の分解速度が低下することが認められた。また酵母ではTsa1のアミノ酸置換により酸化的ストレス感受性の上昇、Trx2との結合能の低下が認められた。以上の結果から、Tsa1のダイマー界面に位置する芳香族アミノ酸はTsa1のデカマー構造を安定化させることで過酸化水素との反応性を高めている可能性が示唆された。(紹介者:清水)

Magalhães et al.(2018)The trehalose protective mechanism during thermal stress in Saccharomyces cerevisiae: the roles of Ath1 and Agt1. FEMS Yeast Res. Sep 1;18(6). doi: 10.1093/femsyr/foy066.

著者らは、出芽酵母が、ストレス曝露時にトレハロースを細胞膜の内側だけでなく外側にも蓄積させることで大きくストレス耐性を上げていることに着目した。本研究では、熱ストレス曝露時に、細胞質で合成されたトレハロースの一部がα-グリコシドトランスポーター(Agt1)によって細胞膜外に輸送されること、ストレスからの回復時には、小胞によって隔離されていた酸性トレハラーゼ(Ath1)が細胞膜外を覆うトレハロースを迅速に分解することが示された。実験室酵母BY4741系のagt1Δ株と野生株に対し、40℃1時間の軽度熱処理を行うことでトレハロースの合成を誘導した後、51℃に8分間晒し、致死的な熱ストレスを与えた。合成される総トレハロース量が両者同じであるにもかかわらず、agt1Δ株では野生株と比べて生存率が低下した。これらの結果に対して著者らは、agt1Δ株がトレハロースの細胞膜外輸送ができず、細胞膜がトレハロースで十分に保護されなかった為と結論付けた。出芽酵母は、トレハロース代謝系の調節機構を高度に発達させることにより、ストレス曝露時の自身の細胞膜の保護を可能にしていると考えられる。(紹介者:岸)

 

 

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