Kusama, K et al. (2022). Dot6/Tod6 degradation fine-tunes the repression of ribosome biogenesis under nutrient-limited conditions. iScience, 25(3), 103986.
doi: 10.1016/j.isci.2022.103986
Dot6, Tod6のプロテアソームによる分解がRibiの抑制を微調整する
リボソームの生合成 (Ribosome biogenesis, Ribi) やタンパク質の翻訳は、細胞内において最も複雑なプロセスのひとつであり、エネルギーの消費も大きい。そのため、窒素やグルコース等の栄養が制限される条件においてはこれらのプロセスを抑制するメカニズムが働く。Dot6, Tod6はRibi遺伝子の転写抑制因子である。両因子は栄養が豊富な条件ではTORC1経路によってリン酸化され、不活性化状態になるのに対し、栄養制限下ではTORC1経路の阻害により脱リン酸化され、活性化状態となりRibi遺伝子の転写を抑制する。ところが、本研究によりTORC1が阻害されるラパマイシン存在下及び窒素飢餓条件において、Dot6, Tod6はそれぞれユビキチンリガーゼであるSCFGrr1, Tom1依存的にプロテアソームによって分解されることが明らかとなった。一見合理的でないようにみえるこの現象について、Dot6, Tod6の過剰発現株を用いて検証した。その結果、ラパマイシン存在下においてDot6, Tod6の蓄積はRibi遺伝子の転写や翻訳活性を過剰に抑制し、さらには成長阻害まで引き起こすことが見出された。著者らは、Dot6, Tod6の分解はRibi遺伝子の発現を適切なレベルに保つことで、栄養制限下における細胞の生き残りのためにRibiや翻訳活性の抑制を微調整すると考察している。本研究で行われた実験に加えて、栄養制限下におけるリボソームタンパク質やrRNAの量などについても検討し、Dot6, Tod6との関連性が認められる結果が得られれば、より説得力のある主張になると考えられる。 (紹介者:吉山)
Schuster et al. (2020) Identifying sequence perturbations to an intrinsically disordered protein that determine its phase-separation behavior. Proc Natl Acad Sci USA. 2020 May 26;117(21):11421-11431. doi: 10.1073/pnas.2000223117.
アミノ酸配列の摂動は相分離傾向を変化させる
液液相分離は細胞内でストレス顆粒やP顆粒などの膜の無いコンパートメントの形成時に見られる現象である。この膜の無いオルガネラには天然変性領域をもつタンパク質が含まれている。本研究ではN末端ドメインに天然変性領域を持ち、相分離のモデルタンパク質であるLAF-1を用いて、アミノ酸配列の変化に対する相分離の挙動を解析した。著者らはin silicoでのシミュレーションとin vivo、in vitroでの実験を組み合わせて、相分離の傾向を支配する特徴を同定した。1つ目に、多様な種間で保存されている小さなドメインが相分離に関与していることを示した。LAF-1のN末端に存在する10残基ほどの保存ドメインは疎水性アミノ酸を多く含んでおり、この領域の欠失は相分離傾向を著しく低下させた。2つ目に、電荷パターンによる影響を示した。LAF-1のN末端ドメインの電荷は均等に配置されていた。そこでアミノ酸配列をランダムにシャフルし、電荷パターンを計算した結果、配列に電荷の偏りが生じると相分離傾向が高まることを明らかにした。3つ目に、チロシンとアルギニンの存在が重要であると示した。この2つのアミノ酸を変異させた場合、相分離の傾向が低下することを明らかにし、全原子シミュレーション(all-atom simulations)では、変異により相分離に関わる相互作用様式も変化することを見出した。これらの配列と相分離の関係の研究は、生体分子凝縮体の生理的役割の理解や合成オルガネラの設計に役立つと期待される。(紹介者 山本)
McNamara et al. (2024) Gene dosage adaptations to mtDNA depletion and mitochondrial protein stress in budding yeast. G3 (Bethesda).14(2): jkad272.
doi: 10.1093/g3journal/jkad272.
ミトコンドリアタンパク質ストレスはmtDNAの維持に重要なタンパク質を隔離・凝集させることでρ0の発生頻度を増やし、細胞増殖を遅延させる
酵母細胞は、呼吸鎖複合体のコアサブユニットをコードしたmtDNAを失うと非発酵性炭素源で生育できなくなる。このような株をρ0と呼ぶ。本実験では、変性しやすいMTS (mitochondrial targeting sequence) 標識タンパク質であるmito-Flucを発現した細胞で、グルコース培地における細胞増殖が遅延し、それに伴いρ0の発生頻度が増加することを明らかにした。ρ0は発酵性炭素源で生育が遅い事から、mito-Fluc発現細胞における増殖の遅延は、細胞集団を占めるρ0の割合が増加したことに起因すると考えられた。また、mtDNAの維持に必要なタンパク質であるRim1、Kgd2、Pim1はmito-Flucの凝集と共局在し、mtDNAの局在と異なっていた。この結果は、mito-FlucによりmtDNAの維持に必要なタンパク質が凝集に隔離されてしまうことで、mtDNAの欠損が引き起こされることを示唆した。続いて、mtDNA欠損による増殖遅延を抑制する遺伝子を同定するために量依存的抑制遺伝子スクリーニングを行なった。スクリーニング結果は、mtDNA欠損ストレス抑制因子の遺伝子量増加株で発生させたρ0の成長速度とある程度の相関を示した。また、mtDNAストレス抑制因子のいくつかは、遺伝子量を増やすことでmito-Fluc発現細胞における増殖の遅延を緩和し、mtDNAの喪失速度を減少させた。このうちmtDNAの喪失速度の減少に最も効果的であったステロールのトランスポートに関わるSCY1 がミトコンドリアのマトリックスに局在することを明らかにしており、著者らはSCY1がミトコンドリアタンパク質ストレス下におけるmtDNA維持に何らかの役割を果たすのではないかと考察している。(紹介者:堀江)
Yoo et al. (2022) Chaperones directly and efficiently disperse stress-triggered biomolecular condensates. Mol Cell. 2022 Feb 17;82(4):741-755.e11. doi: 10.1016/j.molcel.2022.01.005
脱凝集システムは基質の部分的なアンフォールディングによりendogenous biomolecular condensatesを迅速に解消する
熱ショックなどのストレスはタンパク質凝集体の形成と分子シャペロンからなる脱凝集システムの誘導を引き起こす。熱ショックによる凝集体とその解消の研究は、変性・凝集しやすいexogenousなモデル基質が主に用いられてきた。しかし近年、熱ショックにより生じるendogenousなタンパク質の凝集は、有害なミスフォールディングタンパク質の蓄積の結果生じる凝集体(以降aggregates)ではなく、適応的な生体分子凝縮体(biomolecular condensates, 以降BC)であり、シャペロン活性がBCの解消に寄与していることが明らかになってきた。著者らは、in vitroの系を用いて酵母の脱凝集システムがendogenousなポリ(A)結合タンパク質(Pab1)の熱ショック誘導BCを、exogenousなモデル基質のホタルルシフェラーゼのaggregatesよりも早く、直接解消することを明らかにした。また、GroELやHAP(Hsp104-ClpA-P loop)を用いた解析から、Pab1がHsp104により部分的に糸状化されることで、効率的なBC解消が行われていることを明らかにした。さらに、in vitroの結果と動力学モデルを用いたシミュレーションの比較を行い、Hsp104のリクルートと活性化には複数のHsp70が協調して働く必要があることを示した。今回の報告結果がin vivoでも適用されるのか、また、Pab1以外のタンパク質のBCにも適用されるのか、続報が待たれる。今後、endogenousな基質を対象とした解析が進展することで、BC解消の制御機構や分子シャペロンの役割について理解が深まることが期待される。(紹介者:船橋)
Ghosh et al. (2021) Phosphorylation of Pal2 by the protein kinases Kin1 and Kin2 modulates HAC1 mRNA splicing in the unfolded protein response in yeast. Sci. Signal, 14 (684): eaaz4401. doi: 10.1126/scisignal.aaz4401.
Kin1とKin2の基質Pal2はERストレス応答時のHAC1 mRNAのスプライシングに関与する
ERストレス下では転写因子をコードするHAC1 mRNA前駆体がRNase活性を持つIre1にスプライシングを受ける。活性型のIre1とHAC1 mRNA前駆体が共局在するメカニズムは解明されていないが、HAC1 mRNAの3’UTR上で二次構造を取る3’ BE (bipartite element)配列がタンパク質とリボヌクレオタンパク質(RNP)を形成することが示唆されていた。また、キナーゼであるKin1/2がRNP形成を制御することが示唆されていた (Anshu et al., 2015)。そこで著者らは3’ BE結合プロテオーム解析を行ない、結合因子としてPal2を同定した。pal2Δ株はツニカマイシンでERストレスを誘導してもHAC1 mRNAのスプライシングが誘導されず、生育阻害を起こすことが見出された。また、Pal2はKin1/2からリン酸化を受けるモチーフを有しており、このモチーフに変異を導入するとツニカマイシンでERストレスを誘導してもHac1の発現レベルが上昇しなくなることが確認された。これらの結果から、ERストレス下では活性化したKin1/2がPal2をリン酸化し3’ BE上でRNPを形成することが、HAC1 mRNA前駆体のIre1へのリクルートを促進させる、という機構が提案された。
(紹介者:清水)
Rolli S et al. (2024) Clearing the JUNQ: the molecular machinery for sequestration, localization, and degradation of the JUNQ compartment. Front Mol Biosci. 2024 Aug 21;11:1427542. doi: 10.3389/fmolb.2024.1427542.
JUNQの形成からクリアランスまでのメカニズムの解析
JUNQ (JUxtaNuclear Quality control compartment)は、各種ストレスによって生じた細胞内の変性タンパク質を空間的に隔離するDS (Deposition Sites)の一種であり、細胞質側の核周辺に局在する。著者らはこれまで、高温によって容易に変性する外因性のモデルタンパク質へのNLS(Nuclear Localization Signal)やNES(Nuclear Export Signal)の付加による人為的な局在化を通じてDSの挙動の解析を行ってきた。その結果JUNQが、核と液胞の接触部であるNVJ (Nuclear-Vacuole Junction)に局在し、核内に局在するDSであるINQ(INtranuclear Quality control compartment)と核膜を境に隣接することを明らかにした(Sontag et al., 2023)。本論文では、同様のモデルタンパク質NES-LuciTを用いてJUNQの形成、移動、クリアランスにどのようなメカニズムが関与しているかを調べている。その結果、Hsp70 family のSsa1とSsa2を欠損すると細胞質の変性タンパク質はNVJに局在できず、クリアランスが遅延することを見出した。また、変性タンパク質の隔離を担う酵素Btn2とHsp42が、それぞれ変性したタンパク質をJUNQまたはIPOD(Insoluble PrOtein Deposit)に選別することも確認した。更に、オートファジーを司るタンパク質のうち、Atg1とAtg8を欠損させ、その影響を調べた。すると、JUNQの解消が遅延し、細胞質における変性タンパク質は主にオートファジーによって分解されることが示唆された。本論文は酵母の細胞質における変性タンパク質の処理経路を提案しており、タンパク質の品質管理機構への理解を深める上で重要である。しかし、内因性のタンパク質の品質管理に用いられる経路は、これらの実験で用いられた外因性のタンパク質の品質管理経路とは異なる可能性があることには留意すべきである。(紹介者:樋口)
Kenrick A. Waite et al. (2022) Proteasome granule formation is regulated through mitochondrial respiration and kinase signaling. J Cell Sci (2022) 135 (17): jcs259778. DOI: 10.1242/jcs.259778
PSGの形成にはミトコンドリアの呼吸が関与している
プロテアソームは、急性のグルコース枯渇やミトコンドリア阻害下、休止期の細胞においてProteasome storage granules(PSG)を形成する。PSGの形成メカニズムや生理的意義については未解明な点が多く、一説にはプロテアファジーからの保護が考えられている。炭素源としてラフィノースやグリセロールを含む培地では、酵母は呼吸を通じてエネルギーを産生し、定常期ではオートファジーが誘導される。本研究では、オートファジーが誘導される条件でPSGの形成に与える影響を検討した。その結果、ラフィノースやグリセロールを含む培地で培養した細胞ではPSGの形成率が低下することが明らかになった。さらに、ミトコンドリア阻害剤を用いてPSGの形成に与える影響を調べたところ、ミトコンドリア阻害下では炭素源の違いによるPSGの形成率に差が見られなかった。これらの結果から、PSGの形成にはミトコンドリアの呼吸が関与している可能性があると著者らは結論づけている。(紹介者:今城)
Condic et al. (2024) Selection for robust metabolism in domesticated yeasts is driven by adaptation to Hsp90 stress. Science, 385(6707): eadi3048.doi: 10.1126/science.adi3048.
家畜化酵母はHsp90緩衝機能阻害ストレス下でも適応できるような代謝形質が選択されてきた
Hsp90は細胞内に必要量以上に多く存在する分子シャペロンであり、過剰に存在することで環境の変化や遺伝子の変異による影響を緩和する機能を持つ。しかし、Hsp90の緩衝機能はエタノールなどのストレス下では阻害され、酵母は環境の変化や遺伝子の変異に敏感になる。Hsp90が阻害された際に表現型として表れるような変異を明らかにする仕組みは解明されていない。一方で複数の証拠から、Hsp90阻害に依存して表現型として表れる変異は適応進化に関与することが示唆されている。例えば、目の大きさにおけるHsp90依存性の顕在化していない遺伝的変異の蓄積が明らかになり、洞窟における適応進化を促進する可能性がある(Rohner et al. 2013)。著者らはHsp90により制御されてきた代謝形質に着目して、酵母の適応進化とHsp90の関与を明らかにするため研究を行った。まず、ワイン酵母やビール酵母のような家畜化酵母から天然酵母までの様々な酵母を対象として代謝形質の分析を行った。その結果、家畜化酵母はマルトースやマルトトリオースをHsp90緩衝機能が阻害されるストレス下でも効率よく代謝し、マルトース代謝に関与するMAL遺伝子を複数持つことが明らかになった。このことから家畜化酵母ではHsp90緩衝機能の阻害によりMAL遺伝子の重複のような遺伝的変異が表現型として顕在化し、代謝形質を維持することが示唆された。さらにMAL遺伝子の重複数が異なる変異体をHsp90阻害ストレス下で共培養した結果、世代を経るほど重複数の多い変異体の割合が増加し、MAL遺伝子の重複が家畜化の選択圧となってきたことが確認された。これらの結果から、家畜化酵母はHsp90ストレス下でも代謝形質を維持できる形質を持ち、適応進化にHsp90が大きく関与したことが示された。(紹介者:寺島)
Bertgen et al. (2024) Distinct types of intramitochondrial protein aggregates protect mitochondria against proteotoxic stress Cell Rep. 43(4): 114108 doi: 10.1016/j.celrep
ミトコンドリアは急性熱ストレス下でミトリボソームタンパク質Var1を核とする凝集体Var1-bodyを形成する
ミトコンドリアは約1000種類のタンパク質から構成されており、ミトコンドリア独自のストレス防御機構が存在する。ミトコンドリアでも、変性したタンパク質は毒性拡散を防ぐために隔離され、一過性の凝集体(transient aggregates)を形成することが知られている。これとは別に、mtDNAにコードされるミトリボソームタンパク質Var1を核とする凝集体 Var1-bodyが急性熱ストレス下で形成されることを著者らは新たに見出した。Asn残基が豊富なVar1は変性しやすく、非ストレス条件で複数のシャペロンと相互作用することで可溶化しているが、変性タンパク質が蓄積するような環境で不溶化し、凝集する。さらに、クロラムフェニコール処理によりVar1を含むmtDNA翻訳産物の合成を停止した際、急性熱ストレス後の細胞増殖は阻害されたが、MTS-Var1を発現誘導した株は熱ストレスに耐性を示した(MTSはミトコンドリア局在化シグナル)。以上の結果から、Var1の新たな役割として、Var1-bodyの形成により凝集しやすいタンパク質の拡散を防ぐことで熱ストレスから細胞を保護することが示唆された。また、transient aggregatesはHsp78やLonプロテアーゼPim1によって解消される一過性の凝集体であるのに対し、Var1-bodyはHsp78と共局在せず、一旦形成された凝集体はストレスからのリカバリー後も解消されなかった。このように、ミトコンドリアはストレス下で異なる性質の凝集体を形成することで、プロテオスタシスを維持していると考えられた。(発表者:堀江)
Wang et al. (2022) Rapid 40S scanning and its regulation by mRNA structure during eukaryotic translation initiation. Cell, 185 (24):4474–4487.e17. doi: 10.1016/j. Epub.2022. 10.005.
迅速なスキャニングはmRNAの構造によって制御される
真核生物の43S翻訳開始前複合体(PIC)はmRNAの5´-非翻訳領域(5´-UTR)をスキャニングし、正しい開始コドン見つけるが、そのメカニズムは未だ解明されていない。本研究ではリアルタイム一分子蛍光分光法を使用し、in vitroでの43S-mRNA結合、スキャニング、翻訳開始段階を定量的に解析した。その結果、スキャニングは100nt/Sの速度で
5´→3´方向に進むことが示された。哺乳類細胞での翻訳伸長は9~30nt/Sすなわち 3~10アミノ酸/秒の速度で進むことが既に報告されている(Morisaki et al., 2016; Wu et al., 2016; Yan et al., 2016)。また、mRNAの5´-UTRに在る二次構造はRNAヘリカーゼのほどきによりスキャン可能となるが、開始コドン付近の5´-UTRヘアピン構造は48S PICを
5´方向に後退させ、開始コドンにもう一度到達するための再スキャニングを必要とすることが示唆された。さらに、5´-UTRヘアピン構造と上流の類似開始コドン(CUG, UUG)による翻訳制御のメカニズムの枠組みを見出した。今回、翻訳開始の定量的な解析手法が確立されたことで、翻訳開始段階についての理解が深まることが期待される。
(紹介者:寺島)
(Paternoga and Wilson(2022) Ready, steady, go: Rapid ribosomal scanning to reach start codons. Molecular Cell, 83(1):9-11. doi: 10.1016/j.molcel.2022.12.008.)
Lorenz et al. (2011) ViennaRNA Package 2.0. Algorithms Mol Biol. Nov 24;6:26.
RNA分子の機能解析に使用できるバイオインフォマティクスツール
RNAには翻訳されタンパク質となるmRNAだけでなく、タンパク質と連携・共働して生物学的機能を果たす機能性RNAが存在する。このようなRNA分子の配列や構造の分析をする上でバイオインフォマティクスツールの必要性は高まってきており、このViennaRNAもその1つである。ViennaRNAは熱力学パラメータに基づきRNAの基底状態、塩基対形成確率、熱力学特性などを計算することができる。具体的な機能としてはRNA分子の二次構造予測やRNA-RNA相互作用の分析、コンセンサス配列の比較などがあり、他にも様々なツールが存在する。ViennaRNAといったバイオインフォマティクスツールは進化を続けており、今後の核酸分子の機能解析はさらに発展することが期待される。
ViennaRNAPackageはhttps://www.tbi.univie.ac.at/RNA/ から無料でダウンロードができます。また、ViennaRNA WebserverではViennaRNA Packageをウェブブラウザ上で提供されています。
Breckel et al. (2024) Yeast 26S proteasome nuclear import is coupled to nucleus-specific degradation of the karyopherin adaptor protein Sts1. SciRep. 24;14(1):2048doi:10.1038/s41598-024-52352-5.
Sts1の分解はプロテアソームの核移行に依存する
非ストレス下でSaccharomyces cerevisiaeの26Sプロテアソームは主に核内に局在している。少なくとも酵母では、プロテアソームの機能において核局在が重要であることが報告されており、その核局在化にはKaryopherinα Srp1とKaryopherin adaptorのSts1が関与しているが、正確な作用機序については不明な点が多い。著者らの以前の研究で、Sts1が2つのNLSを持っており、1つはSrp1との相互作用に重要であり、Sts1-Srp1複合体の形成を介してSts1の分解は阻害されることが示唆されている。プロテアソームの核移行後のSts1のhalf-life timeは非常に短く、核移行後の分解メカニズムについては不明であった。そこで本研究では、プロテアソームの核移行後、Sts1がどのように分解されるのかを検討した。Sts1の予測構造とプロテアソームとの相互作用を検討し、アンカリングシステムでプロテアソームを細胞質に局在化させると、細胞内のSts1が安定化することが明らかになった。また、グルコース枯渇下で形成されるPSGs (Proteasome storage granules)からのプロテアソームが核に再局在化する際にはSts1が関与しないことが明らかにされた。以上の結果から、Sts1の分解はプロテアソームの核移行に依存していると著者らは結論付けている。(紹介者:今城)
Sivananthan et al. (2022) Pab1 acetylation at K131 decreases stress granule formation in Saccharomyces cerevisiae. J Biol Chem. 299(2):102834. doi: 10.1016/j.jbc.2022.102834. Epub 2022 Dec 24.
Pab1の131番目のリシンのアセチル化がstress granules形成に関与している
細胞が栄養飢餓などの環境ストレスに曝されると、非膜オルガネラのstress granules (SGs)を形成するが、その形成と分解の制御因子の詳細は明らかになっていない。しかし、タンパク質の翻訳後修飾がSGs形成に関わっていることを示唆する報告は複数件みられる。
そこで著者らは、SGsの構成因子の一つであるPab1のアミノ酸配列中のリシン(K)を、リシンと性質の近いアルギニン(R)、アセチル化リシンと構造の近いグルタミン(Q)に置換することで、アセチル化がSGs形成に及ぼす影響について調べた。結果はグルコース枯渇下でPab1-K131QのSGsの形成が抑制された。また、脱アセチル化酵素のRpd3を欠損させた株ではPab1のSGsの形成が抑制された。さらに、K131QではPab1とmRNAのpoly(A)との結合性が大きく減少した。これらのことから、グルコース枯渇下ではRpd3によるPab1 K131の脱アセチル化がSGs形成に必要であることが示唆された。
しかし、リシンとアルギニン、アセチル化リシンとグルタミンの構造の違いやRpd3欠損によるPab1 K131の脱アセチル化以外への影響も無視できないため、アセチル化/脱アセチル化がSGs形成に関わっているという決定的な証拠にはなりえないと考えられる。(紹介者:船橋)
Zencir et al. (2020) Mechanisms coordinating ribosomal protein gene transcription in response to stress. Nucleic Acids Res. 48(20):11408-114120.
doi: 10.1093/nar/gkaa852.
リボソームタンパク質はプロモーターに結合する転写因子によりストレス下で異なる制御を受ける
リボソームタンパク質遺伝子(Ribosomal Protein Gene, RPG)の転写はストレスに応じて厳密に制御されている。先行研究においてRPGのプロモーターは結合する転写因子の種類に応じて3つのカテゴリーに分けられることが示されていたが、それぞれの転写因子による転写制御の機構については理解が進んでいなかった。本研究ではChIP-seqによりストレス下での転写因子のプロモーターへの結合強度や、RPGの転写強度について解析を行った。その結果、カテゴリーⅠのプロモーターに結合する転写因子Hmo1はリボソーム合成ストレス時にプロモーターから解離することが新たに見出された。また、カテゴリーⅠとⅡのプロモーターを持つRPGはTORC1活性とrRNAの転写活性により制御されることが示された。さらに、ChEC-seqの結果よりカテゴリーⅠとⅡのみに結合すると考えられてきたSfp1はカテゴリーⅢのプロモーターにも結合することが示されており、カテゴリーⅢのプロモーターは主にSfp1により転写制御を受けることが見出された。今後、異なるストレス下における転写制御機構についても研究が進められることが期待される。(紹介者:清水)
Karolina Gościńska et al. (2020) Eukaryotic Elongation Factor 3 Protects Saccharomyces cerevisiae Yeast from Oxidative Stress. Genes 2020, 11, 1432; doi:10.3390/genes1112143
HEF3は酸化的ストレス応答において重要な役割を担う。
真核生物のタンパク質合成にはeEF1、eEF2の2種類のcanonicalな翻訳伸長因子が必要である。また、eEF3は酵母などの真菌特有のnon-canonicalな翻訳伸長因子である。eEF3はYEF3、HEF3によってコードされており、YEF3は必須遺伝子である一方で、HEF3は生存に必須ではなく機能は不明であった。そこで著者らはHEF3を欠損した株を用い、酸化ストレス下での酵母の生育やタンパク質の発現レベルを解析した。その結果、酸化ストレス条件下ではHEF3の発現誘導はYEF3と独立して管理されていることが明らかになった。本研究を通して著者らは、HEF3は酸化ストレスに対する耐性獲得に必要であり、活性酸素種からの防御に必要なタンパク質のselective productionへの関与を主張している。
(紹介者:今城)
(Namit Ranjan et al. Yeast translation elongation factor eEF3 promotes late stages of tRNA translocation Fig7(2021))
Sonja Kroschwald et al. (2018) Different Material States of Pub1 Condensates Define Distinct Modes of Stress Adaptation and Recovery. Cell Reports. 23(11):3327-3339. doi: 10.1016/j.celrep.2018.05.041.
ストレス条件下に応じて物理的特性の異なるStress Granuleが形成される
出芽酵母は飢餓ストレスや熱ストレス(HS)下で液液相分離によりStress Granule (SG)を形成するが、そのメカニズムについては未だ解明されていない。酵母の相分離過程は温度、イオン強度、pHなどの化学的・物理的条件の変化に非常に敏感であることが知られている。著者らは、出芽酵母がSGの構成タンパク質の相分離を通じて環境の変化に直接応答するのではないかと仮説を立て、SG構成タンパク質Pub1の凝集を、グルコース飢餓によるpH低下ストレス下やHS下で観察した。その結果、飢餓ストレスにより形成されたPub1凝集体は可逆的なゲル状であったが、HSではより固体的な凝集を形成した。また、HSによる凝集は飢餓ストレスよりもその解消により長い時間を必要とした。著者らのデータから、SG構成タンパク質はストレスの種類や時間、強度により物理的特性の異なる凝集が形成され、ストレス回復後の細胞分裂再開速度を特徴づけることが示唆された。(紹介者:寺島)
Altamirano et al. (2024) eIF4F is a thermo-sensing regulatory node in the translational heat shock response. Mol Cell. 84(9):1727-1741.e12. doi: 10.1016/j.molcel.2024.02.038.
熱ショック下のeIF4Gの構造変化がハウスキーピング遺伝子の翻訳抑制、熱ショックタンパク質の優先的翻訳に関与している
熱ストレス(HS)を受けた酵母細胞では熱ショックタンパク質のmRNA (HS mRNAs)の優先的翻訳が行われる。また、翻訳開始に重要なeIF4F複合体のサブユニットのうちeIF4G, eIF4Eはストレス顆粒(SGs)に隔離されるのに対し、eIF4AはSGsに隔離されず、HS mRNAsの翻訳促進に関与することが報告されている。しかし、HS mRNAsの優先的翻訳の詳しいメカニズムは明らかになっていない。
著者らは精製したeIF4FサブユニットとmRNAを用いたin vitroの実験系により、HS下でeIF4GのeIF4A結合ドメインにコンフォメーション変化が起こり、eIF4AがeIF4Gから解離することを明らかにした。また、eIF4GはmRNAやその他翻訳因子と凝縮体を形成することを示した。さらに、無細胞抽出液や細胞内の翻訳活性をモニターすることで、HSによるeIF4Gの凝縮によってハウスキーピング遺伝子の翻訳が抑制されるのに対し、HS mRNAはeIF4AによりHS下でも効率的に翻訳が行われることを示した。本論文はストレス下の優先的・選択的翻訳のメカニズムのさらなる解明につながると期待される。(紹介者:船橋)
Kumar et al. Dynamics of DNA damage-induced nuclear inclusions are regulated by SUMOylation of Btn2. Nat. Commun., 2024, 15(1):3215. doi: 10.1038/s41467-024-47615-8.
Dynamics of DNA damage-induced nuclear inclusions are regulated by SUMOylation of Btn2
SUMO化されたBtn2がINQの解消を促進する
様々なストレスによって変性したタンパク質を隔離してデポジションサイトを形成することはタンパク質品質管理機構(PQC機構)の重要な機能であり、リフォールディングやプロテアソームへのリクルートが行われるまで変性タンパク質を隔離・集積し、その毒性の拡散を防ぐ役割を果たす。酵母細胞は核内のデポジションサイトとしてINQ (intranuclear quality control bodies) を持つが、その形成とクリアランスの制御機構はまだ十分に理解されていない。今回著者らは、DNA複製ストレス下で変性タンパク質の隔離酵素Btn2がSUMO (small ubiquitin-like modifier) 化修飾を受けることに注目した。Btn2のSUMO化を阻害した場合、INQへの変性タンパク質の集積が促進された。また、Btn2のSUMO化の阻害に加えて、INQのクリアランス促進とINQ内タンパク質のターンオーバーに関与するApj1を欠損させたところ、INQ内にユビキチン化されたタンパク質が蓄積していることが明らかになった。これらの結果を踏まえて著者らは、SUMO化 Btn2が他のシャペロンやプロテアソームとともに、DNA複製ストレスから回復した細胞のINQのクリアランスを促進すると結論づけ、Btn2の翻訳後修飾がPQCの制御に関与していると主張している。(紹介者:樋口)
Wyszkowski et al. (2021) Class-specific interactions between Sis1 J-domain protein and Hsp70 chaperone potentiate disaggregation of misfolded proteins.
Proc Natl Acad Sci USA. Dec 7;118(49):e2108163118. doi: 10.1073/pnas.2108163118.
Ydj1とSis1でタンパク質凝集体解消のメカニズムが異なる
酵母における主な細胞質J-domain proteins (JDP)のSis1とYdj1はJドメインを介してHsp70を活性化させるが、その詳しい機序については不明である。本論文は2つのJDPの違いからHsp70とHsp104のシャペロン活性を段階的に分析することで、タンパク質凝集解消におけるSis1とYdj1がもつ異なるメカニズムを明らかにした。その結果、Ydj1は単独での高い基質結合性を示したが、Sis1はより多くのHsp70をリクルートした。また、Sis1の優位性はHsp70のEEVDモチーフとの結合に依存することを示した。このことからSis1はJドメインを介したHsp70との結合の他に、EEVDモチーフと特異的に相互作用することで、高いシャペロン活性をもつことがわかった。著者らはこのようにSis1とYdj1がもたらすコシャペロンの多様化によってタンパク質品質管理能力が向上していると主張している。(紹介者:山本)
Solari et al. (2023) Riboproteome remodeling during quiescence exit in Saccharomyces cerevisiae. iScience. 27(1):108727. doi: 10.1016/j.isci.2023.108727.
翻訳に関わるリボソームの組成は栄養状況によって変化する
酵母のリボソームの組成は栄養条件やストレスにより変化することが報告されており、翻訳制御の多様化に寄与していると考えられている。酵母の細胞周期が静止期から増殖期に移行すると低下していた翻訳活性が回復することが知られているが、この時の分子機構については明らかになっていない。著者らはnano-HPLC-MS/MSを行ない静止期及び静止期から増殖期に移行する際のリボソームの組成を網羅的に解析した。その結果、栄養条件が変化するとモノソーム画分とポリソーム画分のどちらでも構成タンパク質が変化することが明らかとなった。また、リボソームタンパク質(RP)のパラログ間でも検出された割合に差が認められたことから、環境に応じて翻訳を行なうリボソームの組成が変化することが示された。さらに、栄養条件の変化によってRPの発現レベルには変化が認められなったことから、細胞周期が静止期から増殖期に移行する際にはリボソームの組成を組み換えて翻訳を行なっていることが示唆された。今後、リボソームの組成と特定のmRNAの選択的な翻訳との関連についてさらに研究が進むことが期待される。(紹介者:清水)
Carter et al. (2024) Sequestrase chaperones protect against oxidative stress-induced protein aggregation and [PSI+] prion formation. PLoS Genet. 2024 Feb 29;20(2):e1011194. doi: 10.1371/journal.pgen.1011194.
Sequestraseによる変性タンパク質の隔離は酸化ストレスダメージを軽減する
細胞が環境ストレスに曝されタンパク質が変性・ミスフォールドすると、sequestraseであるBtn2やHsp42がそれらのタンパク質を細胞の特定の部位に隔離することが知られている。Btn2とHsp42の正確な機能を調べるため、著者らは過酸化水素による酸化ストレス下でbtn2Δhsp42Δ株のgrowthが低下することに注目した。btn2Δhsp42Δでは凝集体が増加する一方、脱凝集酵素のHsp104を過剰発現させることでgrowthが回復したことから、タンパク質凝集による細胞毒性が酸化ストレス感受性を引き起こすことが示唆された。また、著者らはsequestraseの基質であり[PSI+]プリオンを形成するSup35の凝集がbtn2Δhsp42Δ株や酸化ストレス下で増加することを見出した。さらに、同条件下でアモルファス状の凝集体とアミロイド状の凝集体の両方が増加していることを示した。これらの結果から、Btn2とHsp42による変性タンパク質の隔離が、酸化による凝集体形成、アミロイド形成がもたらすダメージを軽減する重要な抗酸化防御機構であることを明らかにした。(紹介者:船橋)
Tomaszewski et al. (2023) Solid-to-liquid phase transition in the dissolution of cytosolic misfolded-protein aggregates. iScience 26, 108334. doi: 10.1016/j.isci.2023.108334.
熱ストレスや酸化ストレスなどの環境変化は細胞内のタンパク質を変性させ、さらに凝集すると細胞毒性を示すことが知られている。凝集したタンパク質は脱凝集酵素Hsp104とHsp70によるバイシャペロンシステムにより脱凝集されてリフォールディングや分解を受けるが、凝集したタンパク質が脱凝集されるまでの過程については理解が進んでいない。本論文では凝集体のマーカーとしてFlucSM-GFPを用い、熱ストレスにより生じた凝集体がストレスからの回復過程で消失するまでの過程を解析した。その結果、凝集体は固相から液相に相転移(SLPT)することで可溶化することを明らかにした。SLPTに関与する遺伝子のスクリーニングの結果、Hsp104やHsp110ファミリーであるSse1などが関連することが見いだされた。一方でHsp70はSLPTには寄与せず、凝集体の解消のみに関連することが示された。さらにアルデヒドデヒドロゲナーゼAld6は熱ストレスからの回復過程でFlucSM-GFPと同様の挙動を示したことから、SLPTは酵母自身が持つタンパク質の凝集体においても起きている現象だと考えられた。今後、熱ストレス以外のストレスにより形成された凝集体の解消についても解析が進められることが期待される。(紹介者:清水)
Davi Gonçalves, Sara Peffer and Kevin A. Morano
Cytoplasmic redox imbalance in the thioredoxin system activates Hsf1 and results in hyperaccumulation of the sequestrase Hsp42 with misfolded proteins
bioRxiv preprint doi: https://doi.org/10.1101/2023.06.26.546610; this version posted June 26, 2023.
細胞は環境ストレスにさらされると、恒常性を維持するために複数のシステムを用いて対処する。例えば、新生ポリペプチドは熱、pH、酸化ストレスなどの各種ストレスに対して敏感だが、シャペロンがミスフォールドしたタンパク質のリフォールディングを促進することでタンパク質の恒常性 (プロテオスタシス) は維持されている。細胞内の酸化還元バランスは、主にチオレドキシン系とグルタチオン経路によって維持されているが、これらの相互作用はよくわかっていない。著者らは、細胞質のチオレドキシンレダクターゼTRR1を破壊すると、出芽酵母では熱ショック応答が恒常的に活性化され、ミスフォールドしたタンパク質を隔離するHsp42が、デポジションサイトであるJUNQ (juxtanuclear quality control)に持続的かつ過剰に蓄積することを明らかにした。また、trr1Δ細胞では、Hsp42だけでなくミスフォールドしたタンパク質もJUNQに蓄積した。更に、TRR1とHSP42遺伝子のどちらも欠損した細胞では、酸化的ストレス下で成長が顕著に遅延し、酸化還元のバランスの悪い条件下ではHsp42が重要な役割を担うことが示唆された。著者らは最後に、trr1∆細胞におけるHsp42の局在パターンがグルコース飢餓状態に陥った細胞におけるHsp42の局在パターンと似ていることを示し、栄養欠乏や酸化還元バランスの乱れがミスフォールドしたタンパク質の長期的な隔離を含む対処に関係していると主張している。 (紹介者:樋口)
Boronat et al. (2023) Formation of Transient Protein Aggregate-like Centers Is a General Strategy Postponing Degradation of Misfolded Intermediates J Mol Sci. (13):11202. doi: 10.3390/ijms241311202.
分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)では、熱感受性タンパク質が分解から逃れるためPAC (Transient Protein Aggregate-like Centers)に蓄積する。この機構の役割は、実験系ごとに培養条件や使用されるレポーターが異なるため判断が難しかった。著者らは、既に分裂酵母において熱ストレス時にPACに蓄積することが知られていたタンパク質Rho1.C17R-GFPを出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)で発現させ、その動態を調べた。その結果、出芽酵母においても、穏やかな熱ストレスはRho1.C17R-GFPとHsp104(凝集体からタンパク質をほどく脱凝集酵素)から成るPACの形成を誘導することを確認した。厳しい熱ストレスは細胞質にPACを形成するだけでなく、核小体にリング状の構造体 (NuR) の形成も引き起こす。NuRも温度が回復した際に凝集していたタンパク質が再び可溶化・再生されることで解消された。著者らは出芽・分裂両酵母の解析から、タンパク質はPACに隔離されることでプロテアソームによる分解から逃れ、ストレスからの回復段階では分解ではなくリフォールディングされて再生されると報告している。本研究では、遠縁の酵母が軽重どちらの熱ストレスに対しても非常によく似た生存戦略を持つことを明らかにした。また、PACやNuRなどの形成がタンパク質を分解から守り、これを再利用することでストレスからの脱却を早めるという仕組みが、真核細胞が持つ一般的な機構であると主張している。(紹介者:樋口)
Ali et al. (2023) Adaptive preservation of orphan ribosomal proteins in chaperone-dispersed condensates. Nat Cell Biol. 25(11):1691-1703. doi: 10.1038/s41556-023-01253-2.
ストレスに晒されるとリボソーム生合成が停止し、rRNAと結合していないorphan Ribosomal Proteins (oRPs)が細胞内に蓄積する。著者らはタンパク質タグの一つであるHaloTagとそのリガンドである蛍光色素を用いて新規合成RPsを特異的に標識することで、39℃のヒートショック下でoRPsが核小体周辺に蓄積し、Jドメインタンパク質Sis1と共局在することを見出した。集合体内のoRPsは流動性を持ち、ストレスからのリカバリー時にはoRPsがリボソーム生合成に利用されることで、翻訳活性と細胞増殖の速やかな再開を可能にすることを明らかにした。さらに、Sis1の核外への排除やHsp70のATPase活性の阻害により、集合体内のoRPsの流動性が失われ、細胞増殖の再開が遅れることを示した。これらの結果は、ストレス下でSis1とHsp70がoRPs集合体の流動性を維持することが、ストレスからのリカバリー時の効率的なリボソーム生合成と細胞増殖の再開に重要であるということを示唆している。(紹介者:船橋)
Andersson et al. (2021) Differential role of cytosolic Hsp70s in longevity assurance and protein quality control. PLoS Genet. 17(1): e1008951. doi: 10. 1371/journal.pgen.1008951.
酵母はSSA1~4遺伝子にコードされた4種類のcytosolic Hsp70を持つ。SSA1とSSA2は構成的に発現しており、SSA3とSSA4はストレスに応答して発現が誘導される。これらのHsp70は細胞内タンパク質の品質管理(PQC, Protein Quality Control)システムの主要因子として働き、脱凝集酵素Hsp104とともにバイシャペロンシステムとしても機能する。
SSA1とSSA2が欠損した細胞は野生株に比べて複製寿命が短い。本研究ではSSA1とSSA2の二重欠損株においてSSA4を過剰発現することで、複製寿命が野生株と同程度まで回復することを明らかにした。また、SSA4の過剰発現は温度感受性の改善やタンパク質凝集体の形成を抑制し、リフォールディング能力も回復させることが示された。一方、Hsp104のタンパク質凝集体へのリクルートは完全には回復しなかった。これにはHsp70のNucleotide Binding Domain (NBD)が関与しており、Ssa4のNBDをSsa1のものに置き換えたキメラタンパク質を過剰発現させるとHsp104のリクルートが可能となった。
つまり、Ssa4はSsa1とSsa2の機能を部分的に補うことができ、複製寿命の回復はHsp104非依存的に行われていることが示唆された。一方で、凝集体のクリアランスを効率的に行うHsp104とHsp70のバイシャペロンシステムについては、Ssa4ではなくSsa1がHsp104と相互作用することで成立していると考えられる。本研究により、細胞質のHsp70ファミリーにはそれぞれ違いがあることが明らかになり、これらのタンパク質が持つ個々の特性の解明が進むことが期待される。(紹介者:山本)
Loberg et al. (2019) Aromatic Residues at the Dimer−Dimer Interface in the Peroxiredoxin Tsa1 Facilitate Decamer Formation and Biological Function. Chem. Res. Toxicol. 32, 474-483. doi: 10.1021/acs.chemrestox.8b00346.
Tsa1はチオレドキシンペルオキシダーゼの一種であり、細胞質で過酸化水素の還元を行なう抗酸化酵素で、その還元活性はCys47の酸化還元状態に依存しており細胞質に存在するチオレドキシンTrx1/2により調節を受ける。Tsa1はダイマー構造を基本構造としており、多量化によりデカマー(十量体)構造を取ることが知られている。Tsa1のダイマー界面に位置するPhe44と Tyr78は種間で高度に保存されていることから、著者らはこれら芳香族アミノ酸のデカマー形成における重要性や生理活性への影響をin vitroとin vivoで検討した。Phe 44またはTyr 78を疎水性アミノ酸AlaまたはLeuに置換するとin vitroではデカマー形成が阻害され、過酸化水素の分解速度が低下することが認められた。また酵母ではTsa1のアミノ酸置換により酸化的ストレス感受性の上昇、Trx2との結合能の低下が認められた。以上の結果から、Tsa1のダイマー界面に位置する芳香族アミノ酸はTsa1のデカマー構造を安定化させることで過酸化水素との反応性を高めている可能性が示唆された。(紹介者:清水)
Magalhães et al.(2018)The trehalose protective mechanism during thermal stress in Saccharomyces cerevisiae: the roles of Ath1 and Agt1. FEMS Yeast Res. Sep 1;18(6). doi: 10.1093/femsyr/foy066.
著者らは、出芽酵母が、ストレス曝露時にトレハロースを細胞膜の内側だけでなく外側にも蓄積させることで大きくストレス耐性を上げていることに着目した。本研究では、熱ストレス曝露時に、細胞質で合成されたトレハロースの一部がα-グリコシドトランスポーター(Agt1)によって細胞膜外に輸送されること、ストレスからの回復時には、小胞によって隔離されていた酸性トレハラーゼ(Ath1)が細胞膜外を覆うトレハロースを迅速に分解することが示された。実験室酵母BY4741系のagt1Δ株と野生株に対し、40℃1時間の軽度熱処理を行うことでトレハロースの合成を誘導した後、51℃に8分間晒し、致死的な熱ストレスを与えた。合成される総トレハロース量が両者同じであるにもかかわらず、agt1Δ株では野生株と比べて生存率が低下した。これらの結果に対して著者らは、agt1Δ株がトレハロースの細胞膜外輸送ができず、細胞膜がトレハロースで十分に保護されなかった為と結論付けた。出芽酵母は、トレハロース代謝系の調節機構を高度に発達させることにより、ストレス曝露時の自身の細胞膜の保護を可能にしていると考えられる。(紹介者:岸)