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Journal club 2023

Delarue et al. (2018) mTORC1 Controls Phase Separation and the Biophysical Properties of the Cytoplasm by Tuning Crowding. Cell 174, 338-349. DOI: 10.1016/j.cell.2018.05.042

細胞質の流動性は細胞内活動に大きな影響を与える。著者らはGEM (genetically encoded multimeric nanoparticles) を出芽酵母と哺乳細胞に発現させ、その移動度をもとに細胞内の拡散係数を算出するモデルを確立した。このモデルを用いた解析の結果、直径20nm以上の分子の移動度はTORC1が活性化しリボソーム濃度が増加すると減少することが明らかとなった。さらに、リボソーム濃度と液滴の形成には強い正の相関があることも見出した。これらの結果は、TORC1を介したリボソーム濃度の制御が細胞質の物理学的性質を決定する大きな要因であることを示す。(紹介者:安東)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Elena Jiménez-Martí et al. (2011) Towards an understanding of the adaptation of wine yeasts to must: relevance of the osmotic stress response, Appl Microbiol Biotechnol (2011) 89:1551–1561. DOI 10.1007/s00253-010-2909-4

酒類醸造において、菌体を高濃度グルコース培地へ移す際に酵母細胞はストレスに対処しなければならない。その1つに、高糖濃度によって引き起こされる浸透圧ストレスへの対処が挙げられる。本研究では、実験室株と複数のワイン酵母を用いて、高濃度グルコース培地中での生育と発酵能力を比較した。20%グルコース下でワイン酵母ICV16株は、実験室酵母W303二倍体株よりも生存細胞数が多いことが明らかとなった。また、ICV16株はW303株よりも解糖・発酵関連遺伝子の発現レベルが高いことがトランスクリプトーム解析やRT-PCR解析で確認され、高濃度の糖を含む培地においてICV16株がより優れた発酵挙動を示すことが示唆された。また、生存細胞数の少ないA1、A2株は、20%グルコース下で細胞内グリセロールレベルが他のワイン酵母よりも低いことが明らかとなった。グリセロール産生、流入及び流出に関与する遺伝子の発現が、20%グルコースへの適応に関与している可能性があり、これが生存細胞数の低下に影響しているのではないかと考えられた。さらに、醸造初期に生育に問題があったワイン酵母株を低糖度の再水和培地で事前適応させることで、高糖度培地に移行したときの発酵能力が向上する可能性があることが示唆された。事前適応のための培地は、菌株によって異なる可能性があるため、至適組成と効果はそれぞれで検討する必要がある。(紹介者:高野)

Rubio et al. (2023) Ethanol stress induces transient restructuring of the yeast genome yet stable formation of Hsf1 transcriptional condensates. bioRxiv [Preprint]. 2023 Sep 29:2023.09.28.560064. doi: 10.1101/2023.09.28.560064.

ヒートショック時のHSR(Heat Shock Response)遺伝子の応答において、RNA polⅡのリクルートやHsf1のオリゴマー化、転写の活性化、遺伝子間相互作用は協調的に起こるが、これらはすべて急速な応答で10分以内にピークに達して1時間後には消失する一過性のものである。対してこの論文では、急性的にエタノールに晒した場合のHSR遺伝子の応答は、それとは対照的なものであることが示された。エタノールストレス下では、HSR遺伝子へのRNA PolⅡのリクルートや転写活性はヒートショックに比べて緩やかに上昇し、Hsf11のコンデンセート(集合体)は比較的速やかに形成されるが数時間にわたって安定に維持されることが明らかになった。このことから、同じHsf1に依存する遺伝子であっても与えられるストレスによって異なる様式で転写や遺伝子の局在変化が引き起こされており、転写因子のコンデンセート形成はあくまでも遺伝子の活性化に必要な一部でしかないことが示唆された。さらなるHsf1コンデンセートの特性や機能の研究により、細胞のストレス応答や恒常性維持についての理解が深まると考えられる。(紹介者:今井)

Lee Y et al. (2021) Enhancement of seed germination and microbial disinfection on ginseng by cold plasma treatment. J Ginseng Res. 45(4):519-526.

高麗人参(Panax ginseng)は、朝鮮半島で古くから用いられてきた重要な薬用多年草である。しかし、高麗人参の種皮は硬く吸水が悪いため発芽率が悪く、収量の減少につながっていた。また、高麗人参種子の表面上に存在する病原菌は、苗の生育に影響を与える可能性がある。著者らは、これらの問題点を解決するために、大気圧低温プラズマ技術を利用した。

大気圧低温プラズマは、大気圧かつ室温で発生させることのできるプラズマである。設備も簡便であることから、近年、特に農水産分野での応用研究が盛んに行なわれている。これまで大気圧低温プラズマ照射によって、種子の発芽率が改善することや、微生物が不活化されることが、複数の研究によって報告されていた。

著者らは、アルゴンと酸素を混合したガス、または純粋なアルゴンガスを用いて、大気圧低温プラズマを発生させた。このプラズマで高麗人参種子を処理すると、発芽までの日数が短縮され、根の長さもより長くなることが明らかになった。また微生物検出アッセイでは、プラズマ処理によって細菌、および真菌の両方で生存率の低下が観察された。これらの殺菌・殺真菌効果は、ガス種や微生物の属によって感受性が異なっていた。さらに、高麗人参における重要な病害である根腐れ病の原因菌、C.destructanceの抑制効果が見られることも明らかになった。この抑制効果は、ポテトデキストロース培地上、および高麗人参表面上での両方で確認された。

これらの結果から、大気圧低温プラズマ技術は、高麗人参の発芽率を改善し、また種子表面の殺菌にも利用できる可能性があることが示唆された。

しかし、著者らの実験では、コントロール群として、プラズマ処理をしていない種子を用いている。本来コントロール群は、プラズマ化していないガスを同じ時間だけ当てた種子を用いなければならない。他にも、著者らの実験デザインは多くの問題点がある。この論文を反面教師として、これからの研究力向上に努めたい。(紹介者:西野)

Ciccarelli M et al. (2023) Genetic inactivation of essential HSF1 reveals an isolated transcriptional stress response selectively induced by protein misfolding. Mol. Bio. Cell 34(10):ar101

Hsf1はヒートショック応答 (Heat Shock Response, HSR) におけるタンパク質品質管理 (PQC) 関連因子の発現に重要で、生存に必須の転写因子である。しかし、環境ストレス応答 (Environmental stress response, ESR) に関与する転写因子Msn2/4とターゲット遺伝子の多くが重複しており、Hsf1特異的な機能に関する研究はこれまで多くは行われていなかった。著者らは、HSP40, HSP70, HSP90を構成的に発現させることでhsf1D株を構築し、熱ストレスとAzCによるタンパク質変性ストレス下での転写応答について検討した。

その結果、hsf1D株、msn2D/4D株はともに熱ストレスに対して応答できるが、hsf1D株はAzCに応答できないことが明らかとなった。これは、ミスフォールディングタンパク質の蓄積に対する応答はHsf1依存的に誘導されていることを示唆している。

本論文は転写因子が「何に」応答して活性化しているかを示唆した点で重要な研究であると考える。今後、ストレス種依存的な転写因子の活性化パターンから、ストレスが細胞内に与える影響の理解が進むと期待される。 (紹介者:古谷)

・Krämer L et al. (2023) MitoStores: chaperone‐controlled protein granules store mitochondrial precursors in the cytosol EMBO J. 42: e112309.

doi: 10.15252/embj.2022112309

ミトコンドリアタンパク質の約99%は核ゲノムにコードされており、細胞質で合成された前駆体ミトコンドリアタンパク質はミトコンドリアへ輸送される必要がある。輸送の過程が滞ると、細胞質で前駆体タンパク質が蓄積し、細胞増殖が阻害される。これに対し、出芽酵母はRpn4を介してプロテアソームを活性化させることが先行研究で報告されている。本研究で、Clogger protein(b2-DHFR, b2ΔDHFR)の発現誘導により、前駆体タンパク質の輸送を競合的に阻害したところ、前駆体タンパク質の蓄積が誘導されたにもかかわらずrpn4Δは細胞増殖の阻害に耐性を示した。プロテオーム解析の結果、rpn4ΔではWTと比較してHsp104やHsp42の発現レベルが増加していた。また、Clogger protein発現はHsp104凝集体の形成を促進させたが、Hsp104と相互作用するミトコンドリアタンパク質の増加はrpn4Δでより顕著であった。以上の結果から、rpn4Δでは前駆体タンパク質の隔離・凝集を促進することでその毒性に対処することが明らかになった。著者らはこの凝集体をMitoStoresと命名した。MitoStoresの構成要素はマトリックスを標的とするミトコンドリアタンパク質を多く含み、形成にHsp104とHsp42を必要とした。このことは、ミトコンドリアタンパク質輸送が滞った際のプロテオスタシスの維持に細胞質タンパク質品質管理システムが重要な役割を果たすことを示唆している。(紹介者:堀江)

Liao et al. (2020) Mitochondria-Associated Degradation Pathway (MAD) Function beyond the Outer Membrane. Cell Rep. vol.32.107902 doi:10.1016/j.celrep.2020.107902.

ストレスにより変性したミトコンドリアタンパク質の分解経路として、ミトコンドリア内のプロテアーゼによる分解やマイトファジーによる損傷したミトコンドリアの選択的分解の他に、プロテアソームによる分解であるMitochondria-Associated Degradation Pathway (MAD) が報告されている。本論文では、2.5mM Paraquat (PQ) による軽度の慢性的酸化ストレスに対する感受性がMAD関連因子を欠損させた株で高まることが報告されている。また、MADの阻害は、PQ処理後の細胞でミトコンドリアタンパク質の酸化修飾を増加させ、経時寿命 (CLS) を減少させることが明らかとなった。さらに、4つのミトコンドリア外膜タンパク質がこれまでにMADの基質として報告されていたが、質量分析の結果、PQによるストレス条件下でMADを阻害した場合にユビキチン化が増加するミトコンドリアタンパク質として同定された約70%はミトコンドリア内膜やマトリックスに局在するタンパク質であった。そのうち、TCA回路構成因子Kgd1やマトリックス局在プロテアーゼPim1はPQによるストレス条件下で、転写レベルは一定にもかかわらずMADを阻害するとユビキチン化レベル及びタンパク質レベルが増加した。さらに、共免疫沈降によりMADの構成因子であるCdc48との相互作用が増加することが確認されたため、Pim1及びKgd1がMADの基質であることが明らかとなった。以上の結果は、MADが慢性的な酸化ストレス下でCLSとミトコンドリア膜内のプロテオスタシスの維持に関与することを示唆している。

(紹介者:堀江)

・Escoté et al.(2012) Resveratrol induces antioxidant defence via transcription factor Yap1p. Yeast. doi: 10.1002/yea.2903.

レスベラトロールはin vitroにおいて活性酸素種の除去など抗酸化作用を有することが知られている(Gülçin et al. 2010)。しかし、生体内における活性については不明な点が多い。本論文ではレスベラトロールの酵母における作用機序について検討を行った。筆者らはストレス応答に関わる転写因子のノックアウト株を用いたスクリーニングを行い、yap1Δ株がレスベラトロールへの感受性を示すことを明らかにした。Yap1は酸化ストレス時にチオレドキシンシステムやグルタチオンシステムといった細胞内の酸化還元ホメオスタシスに関わる遺伝子の転写を促進させる転写因子である(D’Autréaux and Toledano, 2007)。qRT-PCRにより低濃度のレスベラトロールはYRE(Yap1 response element) をプロモーター領域に有す遺伝子の転写量を増加させることが確認された。低濃度のレスベラトロールは一時的に細胞内ROSレベルをわずかに上昇させたことから、酵母におけるレスベラトロールによる抗酸化作用はROSレベル上昇によるYap1の転写活性化の促進を介する可能性が考えられた。(紹介者:清水)

Rong-Mullins et al.(2017)Genetic variation in Dip5, an amino acid permease, and Pdr5, a multiple drug transporter, regulates glyphosate resistance in S. cerevisiae. PLoS One​ 2017 Nov 20;12(11):e0187522.doi: 10.1371/journal.pone.0187522. eCollection .

植物や菌類の芳香族アミノ酸生合成に関わるシキミ酸経路の阻害剤にグリホサートが挙げられるが、S.cerevisiaeでは遺伝的背景によってグリホサート添加培地での生育が顕著に異なる。グリホサート耐性には一塩基多型や特定のタンパク質の発現量の増加が関係すると著者らは予想した。そこで、シキミ酸経路においてシキミ酸からコリスミ酸への変換を行うAro1がグリホサート耐性を左右するのか、系統間の配列を比較したが、Aro1の変異は確認されなかった。次に、YJM789株とS288c株を用いて量的形質座位解析を行うと、薬剤の排出に関わるPDR5、グルタミン酸の輸送に関わるDIP5がグリホサート耐性に寄与する遺伝子としてマッピングされた。YJM789×S288c株から野生株,DIP5YJM789/dip5Δ,DIP5S288c/dip5Δ,dip5Δ/dip5Δを作成したところ、DIP5YJM789を持つ株のみがグリホサートに耐性を得た。PDR5に関しても同様の実験を行い、PDR5S288cを持つ株のみがグリホサートに耐性を得た。以上の2つの実験から、遺伝的背景の異なった系統間におけるPdr5,Dip5のグリホサート応答への相違が確認された。本研究によって、DIP5とPDR5に関わる多型がグリホサートの細胞内への侵入と外部への排出に関与して、グリホサート耐性の高低を決定することが示唆された。(紹介者:岸)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Jawed et al. (2023) Balanced activities of Hsp70 and the ubiquitin proteasome system underlie cellular protein homeostasis. Front Mol Biosci. 2023 Jan 4;9:1106477. doi: 10.3389/fmolb.2022.1106477.

酵母のタンパク質品質管理機構(PQC)として、Hsp70依存性のリフォールディングやユビキチンプロテアソームシステム(UPS)によるタンパク質分解などがあげられる。本論文は、Hsp70機能が低下したfes1Δhsp104Δ株は生育温度を上げると生育が悪化するが、さらにUPS関連因子Rpn4を欠損させる (fes1Δhsp104Δrpn4∆)と生育が回復することを見出した。ルシフェラーゼ活性の回復やSILACなどの解析結果から、fes1Δhsp104Δ株ではHsp70機能とUPSのバランスが崩れることで必要以上のタンパク質分解が行われる一方で、fes1Δhsp104Δrpn4∆株ではHsp70機能低下と共にUPS活性が低下することで、結果的にタンパク質を過剰な分解から保護することができて生育が回復すると筆者らは考察している。Hsp70に依存するリフォールディングとUPS活性のバランスを維持することがプロテオスタシスの維持において重要であることが示唆されており、今後、PQCに関わるシステム間の連携についてさらに研究が進むことが期待される。(紹介者:今井)

Park et al. (2021) Translation mediated by the nuclear cap-binding complex is confined to the perinuclear region via a CTIF-DDX19B interaction. Nucleic Acids Research 49, 8261-8276. doi: 10.1093/nar/gkab579

核内でmRNAのcap構造に付加するCBC (cap-binding complex : CBP80/CBP20) 依存的な翻訳 (CT) の分子メカニズムには不明な点が多い。著者らは、NPC複合体のNUP214と結合するRNAヘリカーゼであるDDX19Bが、哺乳細胞のCTに必要な翻訳開始因子 (CTIF) と細胞内で相互作用することを明らかにした。また、CBP80がCTIFとの結合に関してDDX19Bと競合することも見出した。これらの結果から、CBP80結合型mRNAが核から出てくると、DDX19Bによって核周辺に留められていたCTIFがCBP80と速やかに結合することでCTが核周辺で行われるという新たなモデルを提唱した。このモデルはNMDの活性が核周辺に限定されることも併せて示唆している。本研究を基に、酵母など他の生物におけるCTの解明も進むと期待される。 (紹介者:安東)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・Mathew et al. (2017) Selective aggregation of the splicing factor Hsh155 suppresses splicing upon genotoxic stress. J. Cell Biol. Vol. 216, 4027-4040 doi: 10.1083/jcb.201612018.

酵母はストレス下でリボソームの産生を抑制することでエネルギーの消費を抑えることが知られている。本論文では、塩基対形成阻害剤であるMMSの処理時にスプライソソームの構成要素であるHsh155が特異的にINQ (intranuclear quality control) とCytoQ (cytoplasmic quality control)に局在することを発見した。筆者らはHsh155がMMSによるDNA損傷ストレス下ではスプライソソームから解離してINQに隔離されることにより、リボソームタンパク質をコードするmRNAのスプライシングが抑制される、というモデルを示した。一方、btn2Δ株ではHsh155のINQとCytoQへの局在化が抑制されること、MMS除去後の細胞周期の再開が遅れること、MMS処理時にスプライシング阻害が行われなくなることを明らかにしており、Btn2がストレス下でスプライソソームの不活化に関与していることを示している。また、Hsh155の局在化はTORC1経路依存的な制御が行われていることも併せて報告している。(紹介者:清水K)

 

 

 

 

 

・Schneider et al.(2022)Using reporters of different misfolded proteins reveals differential strategies in processing protein aggregates. J. Biol.Chem. 

298 : 102476 doi: 10.1016/j.jbc.2022.102476

ミスフォールディングタンパク質の蓄積は、老化や多くの神経変性疾患の一因だと考えられており、細胞がどのようにミスフォールディングタンパク質を認識して処理するかを

理解することは重要である。本研究では、Guk1, Gus1, Pro3というサイズの異なる3種類のタンパク質の温度感受性変異株、guk1-7、gus1-3、pro3-1に38℃のヒートショックを与えると、いずれのタンパク質も凝集体を形成して、細胞内で共局在することを明らかにしている。一方、これらの凝集体は時間とともに消失したが、消失速度に違いがあり、

特にPro3-1は速やかに除去された。Pro3-1凝集体はHsp104によって優先的に脱凝集され、プロテアソームによって分解されると考えられる。凝集体の除去効率に違いが認められた今回の凝集性レポーターをさらに詳しく解析することで、タンパク質凝集体の処理機構に関する理解が深まることが期待される。(紹介者:高野)

・Carey et al.(2023)A synthetic genetic array screen for interactions with the RNA helicase DED1 during cell stress in budding yeast. G3,Volume 13, Issue 1, jkac296 DOI: 10.1093/g3journal/jkac296.

酵母のDed1タンパク質は、ATPに依存したDEAD-boxファミリーに属するRNAヘリカーゼであり、翻訳前開始複合体の形成の促進やスキャニングによる開始コドンの探索などを通して翻訳の制御を行う。本論文では、Ded1の担う役割のうち、ラパマイシンによりTORが不活性化した際に酵母の翻訳抑制や成長阻害を引き起こす仕組みに着目して研究を行った。Ded1のC末端を欠損させたDed1-ΔCT株を用いて、ノックアウトライブラリーの約5000種類との二重欠損株を作成した。Ded1-ΔCT株あるいは単独ノックアウト株と比較し、合成遺伝子アレイ(SGA)ツールを使うことでラパマイシン存在下での生育状況を定量化した。SGAとは酵母において二重変異株の系統的な構築と両者の遺伝的相互作用を網羅的に解析する手法のことである(Baryshnikova et al., 2010, Methods Enzymol)。生育の極端な改善、悪化を誘発する欠損株を得た遺伝子をそれぞれ、エンハンサー変異、サプレッサー変異を引き起こす遺伝子としてリストアップして、GOtermでカテゴライズした。ストレス時の翻訳システムの再構築に関わるであろう、翻訳関連遺伝子やアミノ酸調節関連遺伝子など、ヒットが予想される遺伝子が数多く含まれていた。また、細胞壁加水分解酵素、タンパク質のグリコシル化、GTPase活性などDED1との関連性の報告がない役割を持つ遺伝子もヒットした。それぞれのカテゴリーがヒットした理由として、Ded1の上流制御因子にGTPase関連の遺伝子があるため、DED1遺伝子と細胞壁制御やタンパク質のグリコシル化の遺伝子の間でのクロストークが存在するため、と著者らはそれぞれの可能性を考察している。DED1と他の遺伝子の相互作用の解明が進むことで、それらがTORC1経路不活性化状態において、細胞ストレスに対して与える影響が明らかになるかもしれない。(紹介者:岸)

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