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Journal club 2022

・Fenton DA, et al.(2022) Development of a ribosome profiling protocol to study translation in Kluyveromyces marxianus.FEMS Yeast Res.

DOI: 10.1093/femsyr/foac024

酵母は、熱ストレスや酸化ストレス、浸透圧ストレスなどに対し、転写の制御を通じてこれらのストレスに対応すると考えられてきた。しかし近年、むしろ翻訳制御が遺伝子発現制御の中心的な要素であるという認識が広まってきたことから、ある条件や環境における瞬間的な翻訳を観察するリボソームプロファイリングの報告が増えている。本論文で筆者らは、Kluyveromyces marxianus のリボソームプロファイリングを行い、解析データをTrips-Vizに追加することで、K. marxianusの個々のmRNAの遺伝子発現について新たな情報を提供した。K. marxianusは耐熱性の酵母であり、産業界で冷却コストの大幅な削減が期待される。(紹介者:岸)

・Katharina et al. (2022) Large organellar changes occur during mild heat shock in yeast. J. Cell Sci. 135, jcs258325. doi:10.1242/jcs.258325

生物にとって様々な環境ストレスの中でも高温の熱ストレスは最も身近なストレスである。生物は熱ストレスに対して恒常性を維持するために応答し、温度変化に適応する。細胞内でも温度が上昇すると、細胞内環境を保護するために熱ストレス応答が活性化する。熱ストレスによって誘導される転写と翻訳の変化によって、細胞は熱ストレスを経験してもタンパク質恒常性(プロテオスタシス)と代謝を維持できるようになる。このような細胞の熱ストレス応答の分子メカニズムは広く研究されているが、温度変化による細胞の内部構造の変化や応答についての情報はほとんどなかった。

本研究では真核生物のモデル生物である酵母を用いて、細胞の内部構造が温度の上昇に対してどのように変化するかを調べた。Saccharomyces cerevisiaeを30℃で培養し、38℃で5、10、15、30、45、90分間の熱ストレスを与え、オルガネラの数、大きさ、形態の変化を測定した。その結果、細胞、核、液胞、ミトコンドリア、Lipid Droplet(LD)、Multivesicular Body(MVB)が熱ストレス処理の時間経過に伴って大きさ、形態ともに変化した。また、液胞・MVB、細胞・核、ミトコンドリア・LDは、それぞれ熱ストレス処理の時間経過に伴って同じような傾向で大きさが変化したことから、これらのオルガネラは互いに影響を及ぼし合うことがわかった。熱ストレス時に起こる細胞の内部構造の変化を調べることは、ストレス応答がどのように制御されているかをよりよく理解する上で重要である。オルガネラの変化の定量化は、今後、真核細胞のストレスに対する適応を研究するのに有用だと考えられる。(紹介者:高野)

・P. Dasmeh and A. Wagner(2022) Yeast Proteins may Reversibly Aggregate like Amphiphilic Molecules. J Mol Biol. Doi: 10.1016/j.jmb.2021.167352

酵母の持つタンパク質は栄養飢餓、熱ショック、化学物質などによるストレスに応答して可逆的に凝集するものが100種以上知られており、これらは相分離を起こしてストレスからの回復を助けていることが報告されている(O’Connel et al., 2015; Wallace et al., 2015; Saad et al., 2017; Cereghetti et al., 2018)。相分離を起こすタンパク質は立体構造を持たない無秩序な領域やドメインを有しているが、その役割は明らかになっていない。本研究では熱ショックにより立体構造が顕著に変化して、タンパク質分解耐性が凝集の前後で著しく変化するタンパク質内にある領域をAPRs(Aggregation Prone Regions)とし、APRsの持つ特徴を解析した。APRsが著しく無秩序であるタンパク質の機能を調べると、RNA結合タンパク質などの核酸への結合に関与するタンパク質が多く存在していることが明らかとなった。また、APRsとその他の領域でアミノ酸の出現頻度を比較すると、塩基性アミノ酸や酸性アミノ酸の頻度は低く、脂肪族残基を持つアミノ酸の頻度は高いことが明らかとなった。今後の研究において、APRs内の酸性アミノ酸の頻度の低さが細胞内での可逆的な凝集を促進するという仮説を検証することが期待される。(紹介者:清水 K)

・Ulrich et al. (2022) From guide to guard-activation mechanism of the stress-sensing chaperone Get3. Mol Cell. doi: 10.1016/j.molcel.2022.06.015.

Get3はTA (Tail-anchored) タンパク質の局在化に関わるATPaseとして機能する (Stefanovic and Hegde, 2007; Schuldiner et al., 2008) ほか、in vitroにおいて酸化剤で処理するとシャペロン活性を持つことが報告されている (Voth et al., 2014)。本論文は、ATPase活性を持つ還元型Get3 (Get3red) とシャペロン活性を持つ酸化型Get3 (Get3ox) の切り替えがCXCモチーフを中心に制御されることを報告している。さらに、Get3redからGet3oxへの変化はCXCモチーフのチオール基の酸化およびそれに伴う構造変化によって起きる一方で、Get3oxからGet3redへの変化には、チオール基の還元に加えてATPとの結合が必要なことを明らかにした。本研究は、細胞内因子がストレス応答性シャペロンの活性をどのように制御しているかの一端を明らかにするものであり、今後、ストレスに対する生体内での応答の理解がさらに深まることが期待される。(紹介者:古谷)

 

・Schmitt et al. (2021) A Multi-Persoective Proximity View on the Dynamic Head Region of the Ribosomal 40S Subunit. Int. J. Mol. Sci. https://doi.org/10.3390/ijms222111653.

本論文ではBioID法を用いてリボソーム小サブユニットのmRNAに接触する領域であるhead region of the 40S ribosomal subunit (hr40S) 近傍に局在するタンパク質を網羅的に同定した。さらに、Asc1の有無によるhr40S近傍タンパク質の存在量の変化をSILAC BioID法によって同定した。Asc1はリボソーム小サブユニットのEサイト付近に存在する足場タンパク質であり、リボソームの活性状態や移動速度に応じて適切な翻訳の進行、mRNAの保存・分解に関与していると考えられている。解析の結果、オートファジー関連因子、脱/ユビキチン化因子、シグナル伝達関連因子などがAsc1依存的にhr40S近傍に局在化することが明らかになった。今後は本結果を基に、Asc1依存的な細胞内応答のさらなる解析が進むことが期待される。(紹介者:安東)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Tkach JM et al. (2012) Dissecting DNA damage response pathways by analysing protein localization and abundance changes during DNA replication stress. Nat Cell Biol. doi: 10.1038/ncb2549.

薬剤等のストレスによりDNA損傷や複製ストレスが引き起こされると、酵母細胞内では様々な変化が起こる。中でもMMS処理時のタンパク質の局在変化について、ハイスループット顕微鏡スクリーニングを用いて体系的に解析すると、同様の機能を持つタンパク質が同じ場所に局在化することが明らかになった。このことから、局在変化の挙動により生物学的機能を推定できる可能性が示された。実際に、核内fociに局在化するCmr1は、DNAの損傷を防止し、他の核内foci局在タンパク質と機能的に相互作用していることが確認された。また、HU処理を行うと細胞質でP-bodyが形成されたが、このP-bodyはグルコース枯渇ストレスで誘導されるものとは経路が異なっていることが示唆された。(紹介者:今井F)

Witold et al. (2022) Elucidation of the interaction proteome of mitochondrial chaperone Hsp78 highlights its role in protein aggregation during heat stress

Hsp78は凝集タンパク質をATP依存的に再溶解させるミトコンドリアの脱凝集酵素であり、熱ストレス下で発現が上昇し、プロテオスタシスの維持に寄与することが報告されている。Hsp78の基本的な生理的機能は、人工のレポータータンパク質や熱変性しやすいAco1などを用いた少数の実例に基づいて明らかにされてきた。本研究では、2つの質量分析を行い、Hsp78の基質となる内因性タンパク質の網羅的な同定と、熱ストレス下におけるHsp78の詳細な機能を解明した。1つ目の質量分析では、基質と相互作用を高める目的でATPaseドメインに変異を導入したトラップ変異体(Hsp78TR)と野生型Hsp78(Hsp78WT)を用いてHsp78の内因性基質を同定した。結果、基質は主にエネルギー産生などの代謝関連タンパク質やシャペロンから構成され、熱ストレス下でHsp78と相互作用する基質タンパク質は増加した。2つ目の質量分析では熱ストレス下及びストレスからの回復時の凝集体(沈殿画分)に含まれるミトコンドリアタンパク質を同定し、両者を比較することで、凝集しやすいまたは再溶解しやすいタンパク質を明らかした。2つの質量分析結果より、Hsp78と相互作用し、熱ストレス下で顕著に凝集し、さらに回復時にHsp78によって再溶解する9つのミトコンドリアタンパク質が同定された。これらはミトコンドリアでの翻訳に関与するタンパク質やFe-Sクラスラーの構築に関与するタンパク質であった。よって、Hsp78はmtPQCを構成するSsc1などのシャペロンとともに、熱ストレス下でミトコンドリアの機能を保護し、熱ストレスからの回復時に翻訳機能を回復させることが明らかとなった。(紹介者:堀江)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・Ikeuchi and Inada.(2016) Ribosome-associated Asc1/RACK1 is required for endonucleolytic cleavage induced by stalled ribosome at the 3' end of nonstop mRNA. Sci Rep. doi: 10.1038/srep28234.

Dom34-Hbs1は、終止コドンを欠く異常なmRNAの分解を3末端に停滞したリボソームの解離によって促進させ、Nonstop Decay(NSD)とNo-Go Decay(NGD)に重要な役割を担っている。dom34Δ変異体では、nonstop mRNAがエンドヌクレアーゼによって分解される。ここで、著者らはdom34Δ変異体を用い、リボソームと結合しているAsc1/RACK1が、エンドヌクレアーゼによるnonstop mRNAの切断に必要であることを明らかにした。またdom34Δ株では、終止コドンを持たない異常mRNAとして作製したGFP-Rz mRNAのエキソソーム分解がAsc1/RACK1によって促進されることを見出した。Asc1/RACK1とリボソームとの結合がdom34Δにおけるnonstop mRNAのエンドヌクレアーゼ切断に必要であることも示唆された。また、dom34Δおよびdom34Δasc1Δにおいて、GFP-Rz mRNA から生じるarrest productsがE3ユビキチンリガーゼであるLtn1により分解されていた。dom34Δは異常なmRNA分解が停滞している株で、Asc1/RACK1がdom34Δにおけるnonstop mRNA分解に寄与していることから、Asc1/RACK1は異常なmRNA分解における第2の経路として機能していることが推測された。Asc1/RACK1による異常なmRNA分解機構について、今後の研究が期待される。(紹介者:清水)

 

・Il-Sup Kim et al. (2011) Decarbonylated cyclophilin A Cpr1 protein protects Saccharomyces cerevisiae KNU5377Y when exposed to stress induced by menadione. doi: 10.1007/s12192-010-0215-9

S. cerevisiae KNU5377Yにおいて、Cpr1 の蓄積はメナジオン(MD)に対するストレス耐性機構に関与している可能性がある。そこで、KNU5377Y cpr1Δのストレス応答をMD存在下で検討した。その結果、MD存在下での細胞増殖速度、細胞生存率および形態、酸化還元状態にCpr1欠損が大きく影響することが示された。cpr1Δにおける様々な細胞救済タンパク質の発現変化を解析することにより、抗酸化酵素を介した活性酸素種の除去とシャペロンを介したタンパク質フォールディングにおけるCpr1の重要性が確認された。MD存在下のcpr1Δでは、抗酸化酵素、分子シャペロン、NADPH、代謝酵素の発現レベルが低下していた。さらに、cpr1Δは細胞のレドックスホメオスタシスが崩壊し、ミトコンドリアだけでなく細胞質でも活性酸素レベルが上昇し、遊離鉄濃度が上昇することを示した。過剰な活性酸素生成の結果、cpr1Δは酸化的損傷の増加と抗酸化活性およびフリーラジカルスカベンジャー能の低下を誘発した。また、BY4741とは異なり、KNU5377Y Cpr1 タンパク質は MD ストレス時に脱カルボニル化された。KNU5377YにおけるCpr1タンパク質の脱カルボニル化は、酸化ストレス応答因子Hsf1、Yap1、Msn2を介して行われると考えられ、脱カルボニル化したCpr1タンパク質は、細胞のレドックスホメオスタシスにおいて重要な役割を担うことが示唆された。(紹介者:家木)

・Crawford et al. (2022) Cytosolic aspartate aminotransferase moonlights as a ribosome-binding modulator of Gcn2 activity during oxidative stress. eLife. https://doi.org/10.7554/eLife.73466

本論文では、既知の酵素としての機能とは別に、リボソームに結合して翻訳を制御する役割を持つ代謝酵素の一つとして、細胞質のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼAat2を同定した。ストレス下でもポリソームとの結合を維持し続けるRNA-binding proteins (RBPs) はストレス応答時の翻訳調節に何らかの役割を担っていることが予想される。筆者らは、酸化的ストレス下でポリソーム画分に多くみられたRBPsのシングルノックアウト変異体を用いたスクリーニングを行ない、aat2Δ株はH2O2に感受性を示すことを明らかにした。aat2Δ株では低濃度のH2O2下でもeIF2αのリン酸化レベルがWTに比べて高く、Integrated Stress Response (ISR) 経路が異常に活性化されている可能性が示唆された。さらにアミノトランスフェラーゼ活性を失ったAat2変異体ではISR経路の異常誘導は認められなかったことから、Aat2のISR調節能とアミノトランスフェラーゼ活性は独立していることが明らかとなった。 (紹介者:安東)

 

・Zyrina et al. (2017) Mitochondrial Superoxide Dismutase and Yap1p Act as a Signaling Module Contributing to Ethanol Tolerance of the Yeast Saccharomyces cerevisiae. doi: 10.1128/AEM.02759-16

ミトコンドリアの電子伝達系過程で産生されるスーパーオキシドラジカルは抗酸化酵素スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)により過酸化水素と酸素へ不均化される。S. cerevisiaeには細胞質酵素Sod1(Cu/Zn-SOD)とミトコンドリア酵素Sod2(Mn-SOD)の2種類のSODが存在し、このうちSod2とエタノール耐性の関与が以前に報告されている(Costa et al. 1997)。本研究では、高濃度エタノールストレス下においてSod2抑制株で生存率(CFU)が減少することが確かめられた。さらに、過酸化水素応答転写因子であるYap1の核への再局在が妨げられ、Yap1標的タンパク質合成レベルの低下もみとめられた。一方で、過酸化水素で前処理したSod2抑制株では生存率が上昇がしたことから、Yap1はエタノール耐性向上に重要であり、Sod2により産生される過酸化水素がYap1を活性化させるシグナルであるといえた。一方で、mtDNAを欠損した株[rho0]では、エタノール耐性がSod2抑制下において上昇したことから別のストレス応答経路の存在が示唆された。著者らは新たなストレス応答経路として、Rtg経路を見出したが、一方でRtg経路の活性化はYap1の活性を抑制した。このように、高濃度エタノールストレスに応答するミトコンドリアから核へのシグナル伝達経路は複雑であり、少なくとも2つの経路が存在することが明らかになった。(紹介者:堀江)

 

Bradley et al. (2021) Acute ethanol stress induces sumoylation of conserved chromatin structural proteins in Saccharomyces cerevisiae. Mol Biol Cell. 32(11): 1121–1133.

SUMOによる翻訳後修飾(スモイル化)はストレスに対する適応反応の一つで、タンパク質の安定性や溶解性を高めることが知られている。著者らは、急性の10%(v/v)エタノールストレスによって、DNA修復やゲノム安定性に関わるクロマチン構造タンパク質のSmc5とSmc6がスモイル化されることを見出した。エタノール誘導性のSmc5/6のスモイル化は、G1期、G2/M期の細胞でE3 SUMOリガーゼMms21により起こっていた。また、DNAアルキル化剤のメタンスルホン酸メチル(MMS)で誘導されるS期チェックポイントキナーゼRad53のリン酸化が、エタノール存在下では誘導されなかったことから、急性エタノールストレスによるクロマチンへの影響は、MMSによるDNA損傷とは異なる影響であることが示唆された。今後、エタノール誘導性のスモイル化とそれによる機能変化についてさらに明らかになり、酵母がエタノールに晒された際の適応応答について理解が進むことを期待する。(紹介者:今井F)

Aliabbas et al. (2014) Roles of Hsp104 and trehalose in solubilisation of mutant huntingtin in heat shocked Saccharomyces cerevisiae cells. BBA 1843 (4): 746-757.

S.cerevisiaeでは、熱ショックを与えると熱ショック応答機構(HSR)が引き起こされる。それによって発現が誘導された熱ショックタンパク質(HSPs)が変性・凝集したタンパク質を再生・分解することでプロテオスタシスが維持され、生存率が向上する。著者らは、変異型ハンチンチン(103Q-htt)を発現させた酵母細胞を45℃の熱ショックで処理した場合、HSRが誘導され、熱ショックを与える前と比べて酸化的ストレスレベルが減少し、103Q-httの溶解度が上昇することを明らかにした。また、Hsp104とトレハロースのどちらか一方のみでは、ミスフォールドしたタンパク質による凝集や毒性を軽減することはできなかったことから、Hsp104とトレハロースはタンパク質安定化因子としての働きを介して、密接に関係していると考えられた。さらに著者らは、103Q-httとTps1pが直接相互作用することを確認している。これは自分の研究にとって、非常に興味深い結果である。(紹介者:今井S)

・Weidner et al. (2014) The polysome-associated proteins Scp160 and Bfr1 prevent P body formation under normal growth conditions. J Cell Sci 127 (9): 1992–2004.

出芽酵母において、多くのmRNAはprocessing bodies(P bodies)で分解される。対数増殖期ではP bodyが1細胞あたり0~1個見られるが、ストレス条件下では多数のP bodyが形成される。また、P bodyは小胞体膜近傍に局在することが報告されていた。著者らは、ポリソームに結合するRNA結合タンパク質Scp160が、P body構成因子であるデキャッピング酵素Dcp2やスカフォールドタンパク質Pat1とポリソーム上で結合することを示した。小胞体やScp160と結合することが報告されているBfr1もDcp2と結合することを明らかにした。Dcp2が形成する凝集体はmRNAを含み、Scp160とDcp2の結合にはmRNAが必要であることも示された。加えて、scp160Δで一部のP body構成因子が凝集体を形成しなかったため、Scp160がproper P bodyの形成に必要であることも示唆された。Bfr1 とScp160の各欠損株では、非ストレス条件下でもP bodyの形成が活発だったが、翻訳活性には影響が認められなかった。以上の結果から、Bfr1とScp160が非ストレス条件下におけるP bodyの形成を妨げていることが示唆された。Bfr1やScp160が非ストレス下でP body形成を抑制する意義や、ストレス条件においてどのような働きを持つか、今後の研究が期待される。(紹介者:清水)

 

・Cereghetti et al. (2021) Reversible amyloids of pyruvate kinase couple cell metabolism and stress granule disassembly. Nat Cell Biol, doi:10.1038/s41556-021-00760-4.

解糖系で働くピルビン酸キナーゼCdc19は、熱ショック (42℃) やグルコース枯渇ストレス下で酵素活性を失い、stress granules (SGs) と共局在するアミロイド凝集体を形成する。凝集体形成はストレス下でCdc19の分解を防ぐ一方、細胞内ATPレベルの急激な減少を引き起こす。そのためリカバリーにおける細胞増殖の回復にはCdc19凝集体の再可溶化によるATPレベルの上昇が必要不可欠である。著者らは、不可逆的な凝集体を形成する変異体Cdc19irrevを用いた解析を行ない、tps1∆などでトレハロース合成系の活性が低下すると、解糖系代謝産物のフルクトース 1,6-ビスリン酸 (FBP)レベルが上昇し、Cdc19irrev凝集体の再可溶化が可能になることを見出した。この表現型はFBPとの結合活性を失った変異体Cdc19∆FBPで認められなかったことから、Cdc19凝集体の再可溶化にはFBPとCdc19の結合が必要だと考えられた。また、Hsp104やSsa2 (Hsp70) などの分子シャペロンがFBPの結合したCdc19凝集体にリクルートされ、その再可溶化やSGsの分解を促進することも示唆された。リカバリー時には解糖系の再開により増加したFBPがCdc19凝集体に結合し、速やかに凝集体を再可溶化していると考えられる。また、Cdc19のLCRs (low-complexity regions) の脱/リン酸化が可逆的な凝集体の形成に必要であることも報告されており(Saad et al. Nat Cell Biol 19: 1202-1213. 2017.)、ストレスに応答したSGの形成/分解機構を理解する上で鍵となる因子だと考えられた。(紹介者:安東)

 

 

 

 

・Yang et al. (2022) A role for cell polarity in lifespan and mitochondrial quality control in the budding yeast Saccharomyces cerevisiae doi:10.1016/j.isci.2022.103957

非対称分裂である出芽の際の母細胞・娘細胞間の複製年齢非対称性は、酸化的損傷が少ない高品質なミトコンドリアが娘細胞側に継承され、低品質なミトコンドリアは母細胞に保持されることによって達成される。この時、ミトコンドリア結合能を持つF-boxタンパク質Mfb1が細胞周期の大部分で母細胞の先端に一部の高品質ミトコンドリアを固定することが、ミトコンドリアの品質管理や正常な複製年齢の維持に重要であることがこれまでに報告されている(Pernice et al, 2016)。本論文では、出芽回数に応じた老化初期Mfb1の局在が非極性化し、それに伴いミトコンドリア分布に異常が生じることを明らかにした。さらに、老化初期に出芽部位選択がランダム化し、出芽部位選択の極性確立に関与するBud1及びその制御にかかわるBud2やBud5を欠損すると、老化初期と同様にMfb1の局在やミトコンドリアの分布に異常が生じ、細胞内により酸化的な低品質ミトコンドリアの割合が増加した。このことから、老化における軸性出芽の忠実度の低下は、Mfb1の母細胞先端における極性的な局在に影響を与えることで、細胞内のミトコンドリアの品質低下や複製年齢の減少をもたらすことが示唆された。(紹介者:堀江)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・Tauber et al. (2020) Modulation of RNA condensation by the DEAD-Box protein eIF4A. Cell, https://doi.org/10.1016/j.cell.2019.12.031.

細胞内には多くのRNP (ribonucleoprotein) 凝集体が存在するが、どのようにRNAが凝集するかは明らかになっていない点が多い。著者らは、RNAやRNP凝集体の表面にRNAがリクルートされることをin vitroの実験系で示した。さらに、細胞内で形成されるstress granules (SGs) へのRNAのリクルート、SGsの形成、P-bodies (PBs) といった他のRNP凝集体とのSGsの結合が、ATP依存的にRNAに結合するDEAD-boxタンパク質eukaryotic initiation factor 4A (eIF4A) によって抑制されることを明らかにした。eIF4AがRNAと結合することで細胞内のRNA同士の相互作用に競合したと考えられる。この働きはATP加水分解活性によって強められることも示唆された。eIF4AがRNAシャペロンとして働き、細胞内でのRNA凝集を防いでいるという新しいモデルを提唱した。(紹介者:安東)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

VP Shakya et al. (2021) A nuclear-based quality control pathway for non-imported mitochondrial proteins. eLife, doi: 10.7554/eLife.61230.

ミトコンドリアの機能障害は、様々な疾患に関連していることが知られている。障害によってミトコンドリア前駆体タンパク質をミトコンドリア内へ輸送できなかった場合、ミトコンドリア外膜(Class2)、細胞質(Class3)、小胞体(Class4)などに移行することがこれまでに報告されていた。著者らは、脱分極剤FCCPでの処理によってミトコンドリア内への輸送障害を引き起こした場合、ミトコンドリアタンパク質Ilv2の前駆体が核に移行して処理されることを新たに見出した(Class1)。他にも、TCAサイクルの酵素であるKgd2などがFCCP処理時に核局在することが分かった。また、核内に運ばれた前駆体は、細胞毒性の緩和のために隔離された後、ユビキチン-プロテアソームシステムにより分解されており、前駆体が隔離・分解を受けるためにはN末端のMitochondria Targeting Sequence (MTS)が重要であることも明らかになった。今後、ミトコンドリアへの輸送障害時に前駆体タンパク質を細胞内各所へ運ぶ機構やその意義について、さらに研究が進むことが期待される。 (紹介者:今井F)

 

 

 

 

 

 

 

Kireeva et al. (2021) Adaptive role of cell death in yeast communities stressed with macrolide antifungals. mSphere, doi:10.1128/mSphere.00745-21

酵母もアポトーシス様のプログラム細胞死 (PCD) を起こすことが知られているが、制御された細胞死が持つ意義・役割はよくわかっていない。本研究では、死細胞がマクロライド系抗真菌剤アンフォテリシンB (AmB) に対して耐性を与え、生細胞の生存に寄与することを明らかにした。死細胞による生存率の向上は、死細胞がAmBの多くを吸収し、生細胞が被爆するAmB量を下げることによるものであり、マクロライド系抗真菌剤特異的な現象と考えられる。一方、Smukallaら (2008) は、レクチン様タンパク質Flo1pによって形成される細胞の凝集体が、AmBだけでなく10%エタノールや過酸化水素などのストレスに対しても耐性を賦与することを報告している*。これらの研究は、個々の細胞やタンパク質レベルの視点だけでなく、細胞集団の視点から酵母のストレス応答をとらえ直す意義を提示している。(紹介者:古谷)

* Smukalla et al., 2008, FLO1 is a variable green beard gene that drives biofilm-like cooperation in budding yeast., Cell, doi: 10.1016/j.cell.2008.09.037

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